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掠奪した短刀
りゃくだつしたたんとう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-26 / 2014-09-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 松山寛一郎は香美郡夜須の生れであった。寛一郎は元治元年七月二十七日、当時土佐の藩獄に繋がれていた武市瑞山を釈放さすために、野根山に屯集した清岡道之助一派の義挙に加わろうとしたが、時期を失して目的を達することができなかったので、それ以来自暴自棄になって、毎日のように喧嘩ばかりして歩いていたが、そのうちに慶応四年となって、鳥羽伏見の役が起り、板垣退助が土佐の藩兵を率いて東上した。寛一郎もその旗下に属して、迅衝隊の隊士として会津へ往ったが、会津城が陥った夜、会津藩士の家へ押し入ったところで、一人の婦人が自害しようとしていた。見ると婦人の手にした短刀が立派なので、慾心がきざした。で、血で短刀を汚さないうちにと思って、いきなり婦人を斬り殺して短刀を掠奪した。
 そのうちに東北が平定して官軍も凱旋した。寛一郎もひとまず江戸へ引きあげ、それから翌年になって故郷へ帰ったが、世間も静になり、世の中もかわって来たので、いよいよ故郷に落ちつくことにして、家を建て、細君ももらって新しい生活に入った。
 処で、その翌年の夏になって、不思議なことが起った。それは某夜、夫婦で床に就いて、細君は早く眠り、寛一郎一人がうつらうつらしていると、どこからともなく火の玉が来て、蚊帳の上を這いだした。寛一郎はもとより剛胆な男であるから、嘲笑って見ていた処で、すぐ火の玉は見えなくなった。朝になって蚊帳を調べて見ると、火の玉の這ったと思われる処が黒く焦げていた。
 寛一郎はちょっと不思議に思ったが、大して気にもかけずにいた処が、その夜になって壁厨の中から短刀が飛出して来て枕頭へ立った。その短刀は会津から掠奪して来たものであった。寛一郎はおやと思って眼をやった。同時に寛一郎の眼が覚めた。寛一郎は夢を見ていた処であった。
 怪異はまだ続いて、その翌晩は短刀が飛び出して来て胸を傷つけた夢を見た。同時に痛みを覚えるので、灯を点けてみると、そこに傷が出来て血が出ていた。
 短刀の怪異は、それから白昼にも起るようになった。短刀が飛び出して来て、体に当るような気がするとともに、そこに痛みを覚えて傷が出来、同時に血が出るのであった。
「女の祟りじゃ」
 さすがの寛一郎も弱ってしまって、高知市の東北になった陽貴山へ往ってそこの和尚に、
「何とかして、封じてもらいたいが」
 と云って頼んだ。和尚は承知して、寛一郎の家の後へ小さな祠を建てさせ、その中へ彼の短刀を納めさしたところで、それからは何の異状もなくなった。そして、後に寛一郎が歿くなった時、家人が祠を調べてみると、短刀は無くなっていた。



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