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暗号数字
あんごうすうじ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島」 三一書房
1989(平成元)年4月15日
初出「現代」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年3月号
入力者田中哲郎
校正者土屋隆
公開 / 更新2005-12-02 / 2014-09-18
長さの目安約 40 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   帆村探偵現る


 ちかごろ例の青年探偵帆村荘六の活躍をあまり耳にしないので、先生一体どうしたのかと不審に思っていたところ、某方面からの依頼で、面倒な事件に忙しい身の上だったと知れた。最近にいたって、彼はずっと自分の事務所にいるようである。某方面の仕事も一段落ついたので、それで休養かたがた当分某方面の仕事を休ませてもらうことに話がついたといっていた。
 僕は、実はきのう、久しぶりで或るところで帆村荘六に会った。
 彼は例の長身を地味な背広に包んで、なんだか急に年齢がふけたように見えた。顔色もたいへん黒く焦げて、例の胃弱らしい青さがどこかへ行ってしまった。色眼鏡を捨てて縁の太い眼鏡にかえ、どこから見てもじじむさくなった。そのことを僕が揶揄うと、彼は例の大きな口をぎゅっと曲げてにやりと笑い、
「ふふふふ、ちかごろはこれでなくちゃいけないんだ。街へ出ても田舎へ行っても、どこにでも行きあうようなオッサンに見えなくちゃ、御用がつとまらないんだよ。そういう連中の中に交って、こっちの身分をさとられずに眼を光らせていなくちゃならないんだからね。昔のように自分の趣味から割りだしたおしゃれの服装をしていたんじゃ、魚がみな逃げてしまう」
 と、俗っぽい服装の弁を一くさりやった。
 そこで僕は、彼がちかごろ取扱った探偵事件のなかで、特に面白いやつを話して聞かせろとねだったのであるが、帆村はあっさり僕の要求を一蹴した。
「諜報事件に面白いのがあるがね、しかし僕がどんな風にしてそれを曝いたかなんてことを公表しようものなら、これから捕えようとしている大切な魚がみな逃げてしまうよ」
 と、彼は同じことをくりかえし云った。
 そのような事件におどる魚は、そんなにはしっこいものであるのか。そういう問にたいして帆村荘六は、
「そういう事件に登場する相手は非常に智的な人物ばかりなんだ。だから若しちょっとこっちが油断をしていれば、たちまち逆に利用されてしまう。全く油断も隙もならないとはこのことだ。そして相手はみんな生命がけなんだから、あぶないったらないよ。しかも相手の人数は多いし、組織はすばらしくりっぱで、あらゆる力を持っている。そういう相手に対し、われわれ少人数でぶつかって行くんだから、本当に骨が折れる」
「なんかその辺で、差支えない話でも出てきそうなものじゃないか」
 と僕がすかさず水を向けると、彼は新しい莨に火をつけながら、
「うん、一つだけ話をきかせようかな。これは八、九年前に僕自身が自演した失敗談だ。例の手剛い相手どもが如何に物を考えてやっているかという一つの材料になると思うよ。しかも僕としては、いまだかつて、これほど頭をひねった事件はなかったのだ。脳細胞がばらばらに分解しやしないかと思ったほど、いやもう頭をつかった。――しかも後でふりかえってみると、実に腹が立って腹が立ってたまらな…

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