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そめちがへ
そめちがえ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「舞姫・うたかたの記 他三篇」 岩波文庫、岩波書店
1981(昭和56)年1月16日
初出「新小説」1897(明治30)年8月5日
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-04-16 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 時節は五月雨のまだ思切悪く昨夕より小止なく降りて、[#挿絵]子の下に四足踏伸ばしたる猫懶くして起たんともせず、夜更て酔はされし酒に、明近くからぐつすり眠り、朝飯と午餉とを一つに片付けたる兼吉が、浴衣脱捨てて引つ掛くる衣は紺にあめ入の明石、唐繻子の丸帯うるささうに締め畢り、何処かけんのある顔の眉蹙めて、四分珠の金釵もて結髪の頭をやけに掻き、それもこれも私がいつもののんきで、気が付かずにゐたからの事、人を恨むには当りませぬと、長火鉢の前に煙草喫みゐるお上に暇乞して帰らんとする、代地に名うての待合朝倉の戸口を開けて、つと入り来るは四十近いでつぷり太つた男、白の縞上布の帷子の襟寛げて、寄道したお蔭にこの悪い道を歩かせられしため暑さも一入なり、悪いといへば兼吉つあんの顔色の悪さ、一通りの事ではなささうなり、今から帰るでもあるまじ、不肖して己に附き合ひ喫み直してはと遠慮なき勧に、お上が指図して案内さするは二階の六畳、三谷さんなればと返事待つまでもなくお万に口を掛け、暫くは差向にて、聞けば塞ぐも無理ならず、昨夕は御存じの親方呼びに遣りしに、詰らぬ行掛りの末縺れて、何、人を、そんなつひ通の分疏を聞くあたいだとお思ひか、帰るならお帰りと心強くいなせしに、一座では口もろくに利かぬあの喰せもののお徳め、途で待ち受けて連れ往きしを今朝聞いた悔やしさ、親方の意気地なしは今始まつたではなけれど、私の気にもなつて見て下され、未練ではござりませぬ、唯だ業が沸えてなりませぬ、親方の帰つた迹ではいつもの柳連の二人が来てゐたこととて、附景気で面白さうに騒がれるだけ騒ぎ、毒と知りながら、麦酒に酒雑ぜてのぐい喫、いまだに頭痛がしてなりませぬとの事なり、兼吉がこの話の内、半熟の卵に焼塩添へて女の持ち運びし杯盤は、幾らか気色を直し肝癪を和ぐる媒となり、失せた血色の目の縁に上る頃、お万が客は口軽く、未練がないとはさすがは兼吉つあんだ、好く言つた、相手が相手ゆゑお前に実がないとこの三谷が誰にも言はせぬ、さういふ時の第一の薬は何でもしたい事をして遊ぶに限る、あれならといふ人はないか、おれには差当り心当はなけれど、中屋の松つあんなどはどうだらうといへば、兼吉は寂しくほほと笑ひ、あんまり未練がなさ過ぎるか知れませねど、腹にあるだけ言つてしまひたいのは私の癖、中屋とまでいはれては黙つてはゐられませぬ、松つあんならぬ弟の清さん、浮気らしいがあの人なら一日でも遊んで見たいと兼て思つてをりました、なるほどさうありさうな事ではあれど、弟の方にはしかもお前の友達の小花といふ色があるではないか、頼まれもせぬにおれから言ひ出し、今更ら理窟をいふではなけれど、噂に聞けば小花と清二とは、商売用で荻江の内へ往き始めし比、いつとなく出来た仲だとやら、その上松つあんよりは捌けてゐるやうでも、あの生真面目さ加減では覚束ない、どうやら常談ら…

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