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横綱
よこづな
作品ID45691
著者太宰 治
文字遣い新字新仮名
底本 「太宰治全集10」 ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年6月27日
初出「東京新聞 第四百六十六号」1944(昭和19)年1月13日
入力者増山一光
校正者土屋隆
公開 / 更新2006-03-15 / 2016-07-12
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 二、三年前の、都新聞の正月版に、私は横綱男女ノ川に就いて書いたが、ことしは横綱双葉山に就いて少し書きましょう。
 私は、角力に就いては何も知らぬのであるが、それでも、横綱というものには無関心でない。或る正直な人から聞いた話であるが、双葉山という男は、必要の無いことに対しては返辞をしないそうである。お元気ですか。お寒いですね。おいそがしいでしょう。すべて必要の無い言葉である。双葉山は返辞をしないそうである。
 何とか返辞をしろ、といきり立ち腕力に訴えようとしても、相手は、双葉山である。どうも、いけない。
 或るおでんやの床の間に「忍」という一字を大きく書いた掛軸があった。あまり上手でない字であった。いずれ、へんな名士の書であろうと思い、私は軽蔑して、ふと署名のところを見ると、双葉山である。
 私は酒杯を手にして長大息を発した。この一字に依って、双葉山の十年来の私生活さえわかるような気がしたのである。横綱の忍の教えは、可憐である。



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