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紅色ダイヤ
べにいろだいや
作品ID45693
著者小酒井 不木
文字遣い新字新仮名
底本 「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」 論創社
2004(平成16)年7月25日
初出「子供の科学 一巻三号~二巻二号」1924(大正13)年12月~1925(大正14)年2月
入力者川山隆
校正者小林繁雄
公開 / 更新2006-06-16 / 2014-09-18
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

謎の手紙

 これから皆さんに少年科学探偵塚原俊夫君を紹介します。俊夫君は今年十二ですけれど、大人も及ばぬ賢い子です。六歳の時、三角形の内角の和が二直角になるということを自分で発見して、お父さんをびっくりさせました。尋常一年のとき、
菜の花や股のぞきする土手の児ら
 という俳句を作って、学校の先生をアッと言わせました。尋常二年の頃にはもう、中学卒業程度の学識がありました。
 俊夫君は文学が好きでしたけれど、それよりもいっそう科学に興味を持ちました。試みに俊夫君に自動車の構造を尋ねてみなさい、その場で巧みな図を描いて説明してくれます。また試みに象の赤血球の大きさは? と聞いてみなさい。言下に九・四ミクロンと答えます。俊夫君の作った遊星の運動を説明する模型は特許になって、中学校や専門学校で使われています。こういうわけで俊夫君は小学校を中途でやめて、独学で研究することになりました。
 その後間もなく、俊夫君はふとした動機から探偵小説が好きになり、とうとう自分も科学探偵になる決心をしました。探偵になるには動物、鉱物、植物学や物理、化学、医学の知識がいるので、俊夫君は一生懸命に勉強しましたが、三年たたぬうちに、それらの学問に通じてしまいました。
 お父さんは麹町三番町の自宅の隣に、俊夫君のために小さい実験室を建ててやりました。その中で俊夫君は顕微鏡をのぞいたり、試験管をいじったりして、可愛い洋服姿で夜遅くまで実験をしています。この実験室は、今は探偵の事務室を兼ねております。
 俊夫君の名が高くなったので、近頃は日に二三人の事件依頼者があります。最近迷宮に入った大事件を三つも解決したので、少年名探偵の評判を得ました。しかし探偵という仕事は、命知らずの犯罪者相手のことですから、腕ずくでは俊夫君もかないません。
 それがため命の危険なこともありますので、俊夫君は負けず嫌いの性分ですけれど、両親が心配して、この春から力の強い人を助手として雇うことになりました。その助手となったのが、すなわちこの柔道三段の私であります。
 はじめ俊夫君は私の名を呼んで「大野さん」と言っていましたが、近頃は「兄さん」と呼びます。それほど私たちの仲は親密になりました。私は朝から晩まで俊夫君と一緒におります。街などを歩いていると、「兄さんは、今、講道館のことを考えていたね」などと言って私を驚かせます。どうして分かるのかと聞くと、にこりと笑って、いかにも簡単に推理の道筋を説明してくれます。
 俊夫君が探偵になったのは、その実、赤坂の叔父さんが非常にすすめたからでもありました。その叔父さんはもと逓信省の官吏でしたが、探偵小説が大好きで、年は五十になったばかりですけれど、退職して毎日探偵小説を読んでいるという変わりものです。
 叔父さんは金持ちで、俊夫君の研究道具など高価なものでも惜しげなく買ってくれます。…

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