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夏と人形
なつとにんぎょう
副題――南国便り――
――なんごくだより――
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「坂口安吾全集 01」 筑摩書房
1999(平成11)年5月20日
初出「レツェンゾ 七月号」紀伊国屋書店、1934(昭和9)年7月1日
入力者tatsuki
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-05-26 / 2016-04-04
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 貴方は南国の傀儡を御存じですか? (と物識りの旅行家が私に話してきかせました)
 文楽の舞台に比べては余り原始的でみすぼらしいものの、まことの名人気質と名も知られない人形造りが一心こめて残した霊妙な人形はむしろ棄てられた傀儡師に伝へられてゐるのです。
 七年前のことです。四国の淋しい路傍で最も神秘な傀儡師を見ました。至妙な演戯よ! 私の心は涯もない夢幻の奥へ誘はれてゐたのです。けれども終生忘れることのできないのは(そして彼は暫く深々と感動の瞑目をつづけてゐました)ふと自分に返つたとき、芝居を終へた人形の額に汗のジットリ滲んでゐるのを見出したのでした。

 私は物識りの旅行家の額には汗なぞ滲まないので、彼の話をきくのが好きです。



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