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安吾の新日本地理
あんごのしんにほんちり
副題07 飛騨・高山の抹殺――中部の巻――
07 ひだ・たかやまのまっさつ――ちゅうぶのまき――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 11」 筑摩書房
1998(平成10)年12月20日
初出「文藝春秋 第二九巻第一二号」1951(昭和26)年9月1日
入力者tatsuki
校正者深津辰男・美智子
公開 / 更新2010-02-20 / 2014-09-21
長さの目安約 56 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 飛騨(実にメンドウな字だから以後カナで書かせてもらいますよ)は日本の古代史では重大きわまる土地であります。
 隣りの信濃はタケミナカタの神がスワ湖へ逃げてきて天孫に降参したという国ゆずり事変の最後の抵抗地点で日本神話では重要なところだ。ところが、現天皇家が本当に確立の緒についたとみられる天武持統の両御夫妻帝(天武は天智の弟で、天智の御子大友親王≪弘文天皇≫を仆して皇位に即き、実質的には現天皇家の第三祖に当られる御方のようです)はヒダとスワの両国に対して特にフシギな処置をほどこしております。スワは信濃の国に属しておりますが、一時分離されてヒダ、スワと二国特別の扱いをうけた。その理由は国史の表面には一度も説かれておりません。特にヒダは古代史上、一度も重大な記事のないところで、昔から鬼と熊の住んでいただけの未開の山奥のようだ。ところが国史の表面には一ツも重大な記事がないけれども、シサイによむと何もないのがフシギで、いろいろな特殊な処置がある隠されたことをめぐって施されているように推量せざるを得なくなるのです。
 だいたい日本神話と上代の天皇紀は、仏教の渡来まで、否、天智天皇までは古代説話とでも云うべく、その系譜の作者側に有利のように諸国の伝説や各地の土豪の歴史系譜などをとりいれて自家の一族化したものだ。だから全国の豪族はみんな神々となって天皇家やその祖神の一族親類帰投者功臣となっている。そして各国のあらゆる豪族と伝説と郷土史がみんな巧妙にアンバイされて神話(天智までの天皇紀をも含めて)にとりいれられていると見てよろしい。しかし、神話だから、そのとりいれの方法が正確ではないし、所詮はボーバクたる神話なのだから、似ているがハッキリとそれがオレの国の誰それ様だとも言いかねるものが多いのです。ところが大本教だの何だのと色々の新宗教がみんな天ツ神の本家の化身はオレだと言いたてたがるように、そういう気風や人間の存在は大昔から今までどの土地にも絶えず存在したことで、その気風がやや科学的になると昔の郷土史家、愛郷的考証家というものになって、古代史の似た部分だけをとりいれてみんな自国の伝説と結びつけてしまう。だから、九州から奥州の果まで至るところにタカマガ原だの天の岩戸だの天孫降臨の地があるばかりか、特にその土地の名が古代史にも現れて土地の国ツ神と天ツ神の交渉が若干国撰の神話に残っていると、それに尾ヒレをつけて伝説をつくり、郷土の地名などにムリムタイにコジつけてあの神話もこの神話もとりいれる。時にはあんまりツジツマが合いすぎて、却って恐縮せざるを得ぬほどピッタリとヌキサシならぬ一致を示していることもある。何千年前の神話がそうピッタリするのも困るものだ。
 ところがヒダに至っては古代史上に重大な記事が一ツもない。だから古代史や神話と表向きツジツマの合うところは一ツもないのです。その…

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