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あんごじんせいあんない
作品ID45917
副題02 その二 大岡越前守
02 そのに おおおかえちぜんのかみ
著者坂口 安吾
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 11」 筑摩書房
1998(平成10)年12月20日
初出「オール読物 第六巻第五号」1951(昭和26)年5月1日
入力者tatsuki
校正者深津辰男・美智子
公開 / 更新2009-11-09 / 2014-09-21
長さの目安約 38 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     男子は慰藉料をもらえないという話

 婚姻予約不履行による慰藉料損害賠償請求事件の訴状
 中央区京橋八丁堀、吉野広吉方でクリーニング業に従っていた原告、羽山留吉は、昭和二十三年六月八日新堀仲之助氏の口ききで被告中山しづと見合の上新堀、吉野両氏夫婦の媒酌で、同年八月十九日三越本店式場で結婚式をあげ事実上の婚姻予約をなした。
 しづの姉婿、加藤律治氏は杉並でクリーニング店を営み、しづは同所に居住している関係上、羽山はしばらく同所でしづと同棲、仕事を手伝ってもらいたいと懇請され、長年の得意をすてゝ、その言に従った。
 挙式後、同夜は一回、夫婦の行事があったが、その翌日よりは、いかなるわけか、しづは羽山とは言葉を交えず、三晩後、しづは板の間でジュウタンをしき別に床をとって独寝し、羽山は重大な侮辱をうけた。羽山はしづの真意を解するに苦しむも、誠心誠意をもって、時には媚態を呈し、種々話しかけたが、しづは口をとざし、頑として答えなかった。
 羽山は万策つき、加藤律治氏にその由を打明けるなど努力したが、そのうちしづは「最初から羽山は好きではない、側からよいよいといわれ結婚しただけで、寝床を別にするのは子供が出来ないようにするためだ」と公言し、羽山との婚姻を破棄し、婚姻予約を履行せざることを確認した。
 羽山はしづの許に寄寓し、多くの得意を失った損害は実に甚大である。さらに、しづのため男子一生の童貞を破壊されたことの精神的打撃は言語に絶する。
 よって、物質上の損害は、金十万円、精神上の損害は慰藉料金二十万円に値いするものである。

 中山しづの姉婿、クリーニング業加藤律治の証言
 しづは私の家内の妹です。新婚後の住居については現在住宅難の時代でもあり、しづは一人で店の留守番をしているのだから、世の中のおさまりがつくまで、しづの所で働いた方がよかろうと申しました。
 しかし、しづは結婚前の交際の頃、二人で東劇へ行った時、原告は帽子もかぶらず、アロハシャツをきてきたので、いやであったとかいっていました。
 八月の終頃、羽山が猛烈な下痢をおこし、しづは感染してはまずいと思い、ジュウタンをしいて別に床をとって、寝たようですが、しづに夫婦関係はどうかとたずねたところ、ふつうにつとめているといゝ、そんなことは聞くものではないといわれました。しづは神経質で気に入らない時は私の顔を見るのもいやだというほどでした。
 羽山が家を出て後、吉野氏と羽山が一しょに参り、吉野氏は私を馬鹿野郎よばわりし三十万円出せといゝました。

 羽山留吉(当時三十歳)の供述
 結婚の当日、夫婦の交りを一回だけ致しました。その時、しづは男女の交りの経験はないようでした。また交りを結ぶに当って不同意を示したことはありませんでした。私はいままでに異性と関係したことはございませんが、夫婦の交りはできました。
 …

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