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かけはしの記
かけはしのき
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本紀行文学全集 中部日本編」 ほるぷ出版
1976(昭和51)年8月1日
初出「日本」日本新聞社、1892(明治25)年5月27日~6月
入力者林幸雄
校正者浅原庸子
公開 / 更新2003-06-29 / 2014-10-04
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 浮世の病ひ頭に上りては哲学の研究も惑病同源の理を示さず。行脚雲水の望みに心空になりては俗界の草根木皮、画にかいた白雲青山ほどにきかぬもあさまし。腰を屈めての辛苦艱難も世を逃れての自由気儘も固より同じ煩悩の意馬心猿と知らぬが仏の御力を杖にたのみていろ/\と病の足もと覚束なく草鞋の緒も結びあへでいそぎ都を立ちいでぬ。
五月雨に菅の笠ぬぐ別れ哉
 知己の諸子はなむけの詩文たまはる。
ほととぎすみ山にこもる声きゝて木曾のかけはしうちわたるらん   伽羅生
卯の花を雪と見てこよ木曾の旅   古白
山路をり/\悲しかるへき五月哉  同
 又碧梧桐子の文に
日と雨を菅笠の一重に担ひ山と川を竹杖の一端にひつさげ木賃を宿とし馬子を友とし浮世の塵をはなれて仙人の二の舞をまねられ単身岐蘇路を過ぎて焦れ恋ふ故郷へ旅立ちさるゝよし嬉しきやうにてうれしからず悲しきやうにて悲しからず。願はくは足を強くし顔を焦して昔の我君にはあらざりけりと故郷人にいはれ給はん事を。山ものいはず川語らず。こゝに贐の文を奉りて御首途を送りまゐらす。
五月雨や木曾は一段の碓氷嶽   碧梧桐
 上野より汽車にて横川に行く。馬車笛吹嶺を渉る。鳥の声耳元に落ちて見あぐれば千仭の絶壁、百尺の老樹、聳え/\て天も高からず。樵夫の歌、足もとに起つて見下せば蔦かづら[#「かづら」は底本では「かづち」]を伝ひて渡るべき谷間に腥き風颯と吹きどよめきて万山自ら震動す。遙かにこしかたを見かへるに山又山峩々として路いづくにかある。寸馬豆人のみぞ、かれかと許り疑はれて、
つゝら折幾重の峯をわたりきて雲間にひくき山もとの里
 日もやゝ暮れかゝれば四方濛々として山とも知らず海とも知らず。かけ上る駒の蹄に踏み散らす雲霧のあはひを見れば一歩の外己に削りたてたる嶮崖の底もかすかなることおそろし。登れども登れども極まる処を知らず。山ます/\高く雲いよ/\低し。
見あぐれば信濃につゞく若葉哉
 軽井沢はさすがに夏猶寒く透間もる浅間おろしに一重の旅衣、見はてぬ夢を護るに難かり。例ならず疾く起きいでゝ窓を開けば幾重の山嶺屏風を遶らして草のみ生ひ茂りたれば其の色染めたらんよりも麗はし。
山々は萌黄浅葱やほとゝぎす
 浅間は雲に隠れて煙もいづこに立ち迷ふらんと思はる。汽車を駆りて善光寺に詣づ。いつかの大火に寺院はおろかあたりの家居まで扨も焼けたりや焼けたり、千歳の松も限りあればや昔の縁乍ち消えうせて木も枝もやけこがれさも物うげに立てるあはひに本堂のみ屹然として聊かも傷はざるは浪花堀江の御難をも逃れ給ひし御仏の力、末世の今に至るまで変らぬためしぞかしこしや。
あれ家や茨花さく臼の上
 又川中嶋を過ぎて篠井まで立戻る。古戦場はいづくの程とも知らねど山と川とに囲まれて犀河の廻るあたりにやあらん。河の水いたく痩せてほとりの麦畠空しく赤らみたり。
 稲荷山といふ処に…

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