えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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「良書普及運動」に寄せて
「りょうしょふきゅううんどう」によせて
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」 てんびん社
1972(昭和47)年11月20日
初出「図書館雑誌」1950(昭和25)年9月
入力者鈴木厚司
校正者染川隆俊
公開 / 更新2007-12-04 / 2014-09-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 アメリカのテネシー谿谷の水を合理的処理をすることで、かつて、洪水で人々の苦労の種であった落差が、今や、電力となり、木材の運搬の水路となり、光と、動力の根源とさえなったことは有名な事件である。
 テネシー・ヴァレーの事業として有名である。
 人間の技術は、今や、集団的構造でもって、巨大なプランを企てている。ちょうど、英雄が大いなる馬を制禦したように、ドン河を、鴨緑江を、テネシー谿谷を、数学と科学の金具でしめつけることでその荒れ狂う力を止め、それを乗りこなしたのである。
 かつて、英雄が、それをしたように、今は、人々が協力し、お互いに組織化することで、それに成功したのである。
 今出版界においても、一つの大いなる落差をもっている。それは都会における良書の出版毎にストック化することである。そして、それを求めている田舎の良書の飢渇である。それを放置して置くと、それは、一つの洪水現象となって、一部のゾッキ本の混濁の中に、良書も涵されることとなるのである。これを防ぐ良心ある店は、二重の苦悩の中に落ちることとなるのである。
 これは、只読者の怠慢ではなくして、一つには金融界の逼迫が、地方小売店をして、返本を急がしむることが原因であり、一つには、配給機構の転換期の大混乱が、一つのパニック現象を一時起したその傷口がまだ癒っていないことに原因している。
 このことは、良心ある書店の企画精神を委縮せしめ、また著者をも、絶望的不勉強に導く可能性が充分にあるのである。
 かつて、学生時代、美しい良書にめぐり逢ったとき、秋夜、燈火の下、幸わいのこころもちは、かかるものかと、しみじみ味ったあの読書精神がもし万一、日本民族の青年、少年のこころから去っていったとしたならば、それはまことに容易ならざることである。
『群書類従』が、紙の値段と一つに売られて、硫酸で焼かれていると聞いたとき、まことに、私達の責任においての、焚書時代の出現であると、慄然たる思いであった。民族の読書力は「死の十字架」に面したのである。
 責任は私達にある。民族の読書力を復興せしめることが、今正に、私達の任務である。
 ここに私は、一つの実験を試みつつあるのである。協会の責任において、一般教養書を選定し、また各専門分野を組織することによって、専門書を選定し、それを配給機構を通して、その棚を設定し普及せしめんとするのである。
 各図書館は、このわが図書館協会の良書速報と地方配給機構の棚の本との一致をたしかめると共に、その内容の価値の批判をも、更に協力されたいのである。この配給の対象は、公共図書館、学校図書館、農業組合、各種工場の教養部門、さらに公民館の図書部、更に各官庁の機構の中にその組織網をもたなくてはならない。
 新刊本については、国立国会図書館の印刷カードをこれに付することによって、整理の人手をはぶき、国家的統一の…

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