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ロボットとベッドの重量
ロボットとベッドのじゅうりょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「懐かしい未来――甦る明治・大正・昭和の未来小説」 中央公論新社
2001(平成13)年6月10日
初出「新青年」博文館、1931(昭和6)年3月号
入力者川山隆
校正者伊藤時也
公開 / 更新2006-11-30 / 2014-09-18
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

    一

「お前、本当に――心から、俺を愛しているかい。」
 KK電気器具製作所、ロボット部主任技師、夏見俊太郎は病に蝕まれ、それと悪闘し、そして、それに疲労してしまった顔と、声とで、その夫人に、低く話かけた。(また――病人って、どうしてこんなに、執拗ものなのかしら)
 夫人は、頭の隅で、一寸、こう眉を、ひそめてから、
「ええ、愛していますとも。」
 夫人の頬は、新鮮な果物のように、艶々しく、黄金色の生毛が、微かに光っているし、その腰は、典雅な線で、その豊満さを現しているし、それから、その下肢は、張切って、滑かだった。
「俺が、死んだなら――独身ではおれまい。」
 夫人は、病気前の、病気中の、狂的な、………、…………………を思い出して、肌を、蒼寒くした。脂肪気の無くなった皮膚のゆるんだ――だが、眼にだけ、異状な光と、熱とを持った、少し、臭気のある呼吸。それが、獣のように…………………………思い出して、憎悪が、肌中を、毛虫のように、這い廻った。だが、その嫌忌すべき夫の顔を取除いて、そうした事を思出すと、夫人の血管の中には、熱を含んだ愛欲が、滲み出してきた。
「いいえ。」
 夫人は、そう答えたが、微かに、(同じ死ぬなら、早い方がいい、妾も、すっかり、看護に疲れたわ)と、思ったし、すぐ、その次の瞬間に、
(まだ、若くて、美しいんだから――)
 と、思って、自分の両手を、並べて眺めた。
 そして、
「こんなに、荒れたわ。」
 と、いった。そして、そういいながら、自分を誘惑した男、戯談のようにいい寄った夫の同僚の一人、手を握った会社の課長、酔って接吻をしようとした親族の男などを、壊けた鏡に写っている記憶のように、きらきらと、閃かせた。
「俺が、死んで――もし、男が欲しくなったなら――」
「嫌、そんな話。」
 夫人は、夫のきている毛布の中へ、手を差込んで、夫の指を握った。
「そんな事、考えないで、早く、よくなってね。」
 夫は、疲労した瞳を、部屋の扉の所へやった。
「あの、ロボット。」
 夫人は、振向きもしないで、
「早くよくなって、又、これを、二人の物にしましょうよ。」
「あの三号のロボットを俺だと思って――」
 俊太郎は、夫人の指を握りしめて、愛の印を与えた。
「嫌よ、そんなこと。貴下、頭が、どうかしているわ。さ暫く、お眠みなさいね。」
 夫人は、手を引いた。
「俺は、そういうように、特種な設計をしておいたんだ。」
「嫌、嫌。」
 夫人は、椅子から立上った。そして、扉の方を見た。扉の傍に、精巧な、軽金属製のロボット――侵入者を防ぐためのロボットが、冷かに立っていた。青い服を着て、手袋をはめて、パリから来た、一九三六年型の、パリ女の好みの顔立をして、じっと、夫人を眺めていた。

    二

 俊太郎は、ベッドの上へ起上った。湿おいの、無くなった眼、眼瞼の周囲に、…

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