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たどんの与太さん
たどんのよたさん
作品ID46425
著者竹久 夢二
文字遣い新字新仮名
底本 「童話集 春」 小学館文庫、小学館
2004(平成16)年8月1日
入力者noir
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-08-02 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「なんだってお寺の坊さんは、ぼくに與太郎なんて名前をつけてくれたんだろう」
 と、與太郎は考えました。
「飴のなかから與太さんが出たよ」街の飴屋の爺さんが、そう節をつけて歌いながら大きなナイフで飴の棒を切ると、なかから、いくらでも與太郎の顔が出てくるのでありました。これには與太郎も困りました。
「よんべ、よこちょの、よたろうは」
 そういって、八百屋の小僧まで、與太郎が、八百屋へ大根だの芋だのを買いにゆくと、からかいました。
「あの坊さんは、あれでエライお方なんだよ。あんなエライお方が、名づけ親なんだから、お前は、きっと今にエラクなりますよ」
 與太郎のお母さんは、いつもそういいました。加藤清正は加藤清正らしい顔をしているし、ナポレオンはナポレオンらしい顔をしているから、與太郎の顔も與太郎らしいだろうか、與太郎は考えるのでした。だけど、飴のなかから出てくる顔は、どうもよくないや。だけど飴のなかから大そうエライ人が生まれるのかも知れない。キリスト様は、馬小屋のなかからお生れなすったし、ナスカヤ姫は、紅茸から出て来たからな。與太郎は考えるのでした。
「マリヤとグレコは、山へ茸狩にゆきました」
 與太郎は妹のお才に、デンマルクのお伽噺をよんできかせました。
「マリヤとグレコは、だんだん山の奥の方へはいってゆきました。するとそれはそれは綺麗な紅茸がどっさり生えていました。――綺麗だなあ。グレコが言いました。――いけませんよ、それは毒茸ですから。マリヤが言いました。――だって綺麗だから好いよ。――いくら綺麗でも毒なものはいけません。これはとると死んでしまいますよ。マリヤが何と言っても、グレコは紅茸をとりました。
 ――わたしはデンマルクの第二王女です。わたしは姉の女王のために、この山奥へ流されたのです。可愛いい親切な坊っちゃん、あたしの王様になって下さいね。紅茸の王女は、そう言ってグレコの手をとって、森の御殿へつれてゆきました。
 與太郎は、あの話を思出しました。どんな物をでも可愛がってやろう、そしてどんな物とでも話をして、仲よくしようとそう考えました。
 街を歩いても、電車のなかでも、もっとみんな仲よく話そうと考えました。そこで妹のお才と二人で街へ出かけてゆきました。
 まず酒屋のブル犬に話かけました。
「ブルさん今日は、好いお天気ですね」
 與太郎がそう言うと、ブル犬は驚いて
「ウーウー」と吠えましたから、お才がなき出しました。
 與太郎はお才をつれて電車通の方へゆきますと、向うから、黒い毛皮のコートを着た奥さんがくるのを見つけました。與太郎は奥さんにお辞儀を一つして、
「おくさん、たいそう寒い風がふきますわね。おくさんはたいそう重そうな包を持っておいでですね。ぼくが、すこし持ってあげましょうか」
 そういうと、奥さんは白い顔のなかで、黒い眼を三角にしていいました…

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