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作品ID46442
著者竹久 夢二
文字遣い新字新仮名
底本 「童話集 春」 小学館文庫、小学館
2004(平成16)年8月1日
入力者noir
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-08-02 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 日が暮れて子供達が寝床へゆく時間になったのに、幹子は寝るのがいやだと言って、お母様を困らせました。
「さあ、みっちゃんお寝みなさいな。雛鳥ももうみんな寝んねしましたよ」
 お母様は、幹子に寝間着を着せながら仰言いました。
「みっちゃんが夕御飯たべてる時に、親鳥が コ コ コ って言って雛鳥を寝かしていましたよ」
「だってあたし眠くないんですもの」
「山の小鳩も、もう親鳩の羽根の下へ頭をかくして コロ コロ コロ お休みって眠りましたよ」
「だってあたし眠くないの」
「赤い小牛は小屋の中で、羊の子は青い草の中で寝しましたよ」
 幹子は、柔かい気持の好い寝床へ這入ったけれど、まだ眠ろうとはしませんでした。蒲団の中へもぐりこんで身体をゆすりながらいやいやをしながらむずかりました。
 この時、寝室の窓からお月様が、にっこり覗きこみました。
「そら御覧!」
 お母様はお月様の方を指しながら仰言った。
「お月様がみっちゃんに「おやすみ」を言いにいらしたよ。まあお月様がにこにこ笑っていらっしゃる」
 お月様は、幹子の眼のうちに輝いた。それは恰度、「好い児のみっちゃんおやすみ」と言っているように見えました。
 幹子は、寝床の中からお月様の方を見あげて「お月様おやすみなさい」
 そう言って枕に頭をつけて、お月様を見ながら、お母様の子守唄をききました。
お月様の美しさ
天使のような美しさ
「母様! お月様は小羊も寝かしてやるの?」眠むそうな顔をした幹子がたずねました。
「ええお月様は小羊でも山の兎でも寝しておやんなさるよ」
 幹子の目蓋は、もう開けられないほど重くなって来ました。けれどお月様は、やっぱり窓からお母様や幹子の寝床を照しました。
東の森を出る時に、
お月様は何を見た?
青い牧場の小羊が、
親の羊の懐へ
そろりと這入って寝るとこと
好い児の坊やが母様と
寝んねするのを見ています。
 お月様は、にこにこしながら、子守唄を歌うお母様と幹子とを見ていました。お母様もお月様のほうを見て笑っていらしたけれど幹子は何も見なかった。幹子はもうすやすやと眠ってしまったから。



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