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露伴先生
ろはんせんせい
作品ID46468
著者斎藤 茂吉
文字遣い新字旧仮名
底本 「斎藤茂吉選集 第十二巻」 岩波書店
1982(昭和57)年2月26日
初出「斎藤茂吉全集 第10巻」1954(昭和29)年1月
入力者しだひろし
校正者門田裕志
公開 / 更新2006-11-29 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 昭和九年の冬に、岩波茂雄さんの厚意によつてはじめて露伴先生にお目にかかり、その時は熱海ホテルで数日を楽しく過ごした。
 それ以来、月に数回、或は一二回ぐらゐづつお邪魔に参上して先生から教を受け、終戦の年までつづいたのであつた。
 教を受けるといつても、こちらの予備が無いと何にもならないのである。実はさういふ日の方が私には多かつた。けれどもお邪魔にあがつて一二時間費し、門を辞する時には、まことに安楽な、何かに充たされたやうな心持になるのが常であつた。
 そのころ先生は支那の文字、金石について興味を有たれてゐた。一部破壊されたといふか、磨滅したといふか、さういふ欠陥のあるところを幾日も幾日もかかつて、新しく補充せられて居られたりした。先生はこれを老人の遊びなどと笑つて居られたが、実に静謐な精到な学風のやうな感じを得て帰り帰りした。
 また支那文字の古いところを調べられて、古の文字は実に不思議である。二本引くところを三本引いたり、四つ打つところを五つも打つたり。これ見給へ、いくら何だつてこれぢや議論にも何にもなるまいぢやないか。かういふ大家の字がこんな風で、平然として居られてみると、僕のやうな、まあ自由主義といつたやうな奴にも、結論がつきにくいね。
 かういふお話がつづくのである。この場合にもこちらの予備が出来てゐず、支那に於けるその方面の大家の名などが幾人も出てくるのであるが、やはりぼんやりとして聞いてゐるといふ有様であつた。それでも露伴的丁寧親切の学風ともいふべきものをそれとなく感じて帰り帰りしたものである。



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