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京鹿子娘道成寺
きょうかのこむすめどうじょうじ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「幻の探偵雑誌4 「探偵春秋」傑作選」 光文社文庫、光文社
2001(平成13)年1月20日
初出「探偵春秋 第二巻第六号」春秋社、1937(昭和12)年6月
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2006-11-24 / 2014-09-18
長さの目安約 51 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

        序

 筆者が、最近、入手した古書に、「娘道成寺殺人事件」なるものがある。
 記された事件の内容は、絢爛たる歌舞伎の舞台に、『京鹿子娘道成寺』の所作事を演じつつある名代役者が、蛇体に変じるため、造りものの鐘にはいったまま、無人の内部で、何者かのために殺害され、第一人称にて記された人物が、情況、及び物的証拠によって、犯人を推理する――というのである。

 記述の方法は、うら若き、長唄の稽古人なる娘の叙述せる形式を用いているが、その口述的な説話体は、簡明な近代文章に慣らされた自分達には、あまりにも冗長に過ぎる感じを抱かしめる。

 書の体裁は、五六十枚の美濃紙を半折し、右端を唄本のように、綴り合せたもので、表紙から内容に至るまで、全部、毛筆にて手記されている。
 表紙の中央には、清元の唄本でもあるかのように、太筆で「娘道成寺殺人事件」と記されてあり、左下隅には、作者、口述者、又は、筆記者の姓名でもあろうか、「嵯峨かづ女」なる文字が、遠慮がちに、小さく記されている。
 書の全体は、甚だしく、変色し、処々は紙魚にさえ食まれている。従って、相当の年代を経たものと観察される。が、この一点に留意して、仔細に点検するとき、その古代味に、一抹の不自然さが漂う。――かくの如き疑問及び古典的ともいうべき取材にも拘らず、記述方法に、幾分の近代的感覚が察知しられること――その上、故意になされたと推定し得るほどにも、明白な時代錯誤場所錯誤、及びある程度の矛盾が、敢てなされていること、等を合せ考えるとき、この書物それ自体が、ある意味で、探偵小説味を有しているのではあるまいか、とも感じられる。――即ち、大正、または、昭和年間の、好事家探偵小説作家が、彼のものせる作品の発表にあたり、かくの如き「古書」の形態を装い、同好者の何人かに入手されんことを、密かに、望んでいた……と。

 筆者は、右の事情を前書きすることに依って、この「娘道成寺殺人事件」の紹介を終り、姓名不詳の作者が希望していたであろう通りに、その全文を探偵小説愛好者諸氏の御批判に捧げる。

        |○|

 わたくしが、あの興行を、河原崎座へ見物に参りましたのは、もとより、歌舞伎芝居が好きであり、
瀬川菊之丞
芳澤いろは
嵐雛助
瀬川吉次
名見崎東三郎
岩井半四郎
と申しますように、ずらりと並んだ、江戸名代役者のお芝居を、のがしたくはなかったからに相違ございませんが、それにいたしましても、中幕狂言の京鹿子娘道成寺――あの地をなさいました、お師匠の三味線を、舞台にお聞きしたいからでもございました。何分にも、あの興行は序幕が「今様四季三番叟」通称「さらし三番叟」というもので、岩井半四郎が二の宮の役で勤めますのと、一番目には、(いせ[#改行]みやげ)川崎踊拍子、二番目狂言には、「恋桜反魂香」――つまり、お七が、吉…

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