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手紙
てがみ
作品ID46482
著者知里 幸恵
文字遣い新字旧仮名
底本 「銀のしずく 知里幸恵遺稿」 草風館
1996(平成8)年10月1日
入力者川山隆
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-11-26 / 2014-09-21
長さの目安約 101 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

知里高吉・浪子宛(幌別郡登別村)
大正五年十月頃(旭川区五線南二号発信)


拝啓 しばらく御無沙汰いたしました。お父上の御病気は大分よくなったときいて私等ははじめて安心いたしました。秋も早やたけなはとなりまして四方の山は錦を着飾ってだん/″\涼しうなりましたから、きっと病気もよくなるでせうと私も昼夜祈って居ります。母上様も今年は御健康の由、いかもいゝあんばいに沢山とれておあしもたくさんとれゝばいゝと願って居ります。私も無事にて勉学をして居りますから御安心下さいませ。
新聞でも御存じの聯合共進会は八日から開かれました。教育展覧会も開かれました。区内各学校、上川支庁管内の学芸品が並べてありますからまことにりっぱださうです。私も二三日のうちに行って見ます。私の綴方も出て居ます。
昨日は区内小学校聯合音楽会がひらかれました。私は第五アイヌ学校の卒業生となってオルガン独奏をやりましたが意外 うまく出来ました。他の学校から出た生徒達は上手に唱歌をうたひましたが私等のアイヌ生徒も余程上手でした。幾万の見物人の前でするのでずいぶんほねおれたでせう。私なんか間違はないで弾いてしまってみんなに手をはたいてほめられて、ほっとしましたわ。かういへば、いかにもうまさうにきこへませうが実はハボから見たらほんとに下手なんで御座いませう。いつかお話した東京庁立体操音楽女学校を卒業して旭川高等女校の唱歌教師をしている鈴木先生の独唱もきゝました。旭川に一人の先生の声をきいたのですから余程光栄だといはなければならないのださうです。それで閉会でした。でも面白うございましたよ。
男先生の尺八だの聞いてゐたら、もうはらわたにしみこむやうな気がしますの。イスレキをぢさんのふゑより少しよかったやうでした。
これで音楽会のはなしはよしませう。
此の間から集めた砂糖一樽、お父上に差上やうと思ってゐましたところ父上様には悪いと聞いて仕方がありませんから、残念ながら高央と真志保におくりますから父様のかはりとなって食べて下さい。キリブもらったからハボにあげやうと思って砂糖と一しょにしまっておいたら、ふち知らずに戸棚をあけておいたので猫がたべかけました。それをまたふちが見つけてキリブをもって来てまた、アクの中へまちがって、おとしてしまったの。それでとう/\だめになってしまったのですもの。また見つけてあげませう。
さらばさらば。父上様お身をお大切に早くなほって下さい。ハボも大事にいかさきして下さい。
さよなら
暮れゆくまどにて
幸恵
  母上さま[#「上さま」は「母」と「父」の二行の中央]
  父
[#改ページ]
知里高吉宛
大正六年四月一日付(旭川発信)


拝啓
まへからしばらく御心配下さいました旭川区立職業学校受験の結果は、幸に四等にて合格いたしましたから何卒御安心下さいませ。タイムスで御覧になることでせう。

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