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少年連盟
しょうねんれんめい
作品ID46488
著者佐藤 紅緑
文字遣い新字新仮名
底本 「少年連盟」 少年倶楽部文庫、講談社
1976(昭和51)年4月16日
初出「少年倶楽部」1931(昭和6)年8月号~1932(昭和7)年6月号
入力者゛゜゛゜
校正者土屋隆
公開 / 更新2008-03-06 / 2014-09-21
長さの目安約 228 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     暴風雨

 雲は海をあっし海は雲をける。ぼうぼうたる南太平洋の大海原に、もう月もなければ星もない。たけりくるう嵐にもまれて黒暗々たる波濤のなかを、さながら木の葉のごとくはしりゆく小船がある。時は三月の初旬、日本はまだ寒いが、南半球は九月のごとくあたたかい。
 船は一上一下、奈落の底にしずむかと思えばまた九天にゆりあげられる、嵐はますますふきつのり、雷鳴すさまじくとどろいていなづまは雲をつんざくごとに毒蛇の舌のごとくひらめく。この一閃々々の光の下に、必死となってかじをとりつつある、四人の少年の顔が見える。
 みよしに近く立っているのは、日本の少年大和富士男である。そのつぎにあるは英国少年ゴルドンで、そのつぎは米国少年ドノバンで、最後に帆綱をにぎっているのは、黒人モコウである。
 富士男は十五歳、ゴルドンは十六歳、ドノバンは十五歳、モコウは十四歳である。
 とつぜん大きな波は、黒雲をかすめて百千の猛獣の群れのごとく、おしよせてきた。
「きたぞ、気をつけい」
 富士男はさけんだ。
「さあこい、なんでもこい」
 とゴルドンは身がまえた。同時に百トンの二本マストのヨットは、さかしまにあおりたてられた。
「だいじょうぶか、ドノバン」
 富士男は暗のなかをすかして見ながらいった。
「だいじょうぶだ」
 ドノバンの声である。
「モコウ! どうした」
「だいじょうぶですぼっちゃん」
 モコウは帆綱にぶらさがりながらいった。
「もうすこしだ、がまんしろ」
 富士男はこういった、だがかれは、じっさいどれだけがまんすれば、この嵐がやむのかが、わからなかった。わからなくても戦わねばならぬ、自分ひとりではない、ここに三人がいる、船底にはさらに十一人の少年がいる、同士のためにはけっして心配そうな顔を見せてはならぬのだ。
 かれは大きな責任を感ずるとともに、勇気がますます加わった。
 このとき、船室に通ずる階段口のふたがぱっとあいて、二人の少年の顔があらわれた。同時に一頭のいぬがまっさきにとびだしてきた。
「どうしてきた」と富士男は声をかけた。
「富士男君、船がしずむんじゃない?」
 十一、二歳の支那少年善金はおずおずしながらいった。
「だいじょうぶだ、安心して船室にねていたまえ」
「でもなんだかこわい」
 といまひとりの支那少年伊孫がいった。
「だまって眼をつぶってねていたまえ、なんでもないんだから」
 このときモコウはさけんだ。
「やあ、大きなやつがきましたぜ」
 というまもなく、船より数十倍もある大きな波が、とものほうをゆすぶってすぎた。ふたりの支那少年は声をたててさけんだ。
「だから船室へかえれというに、きかないのか」
 富士男はしかるようにいった、善金と伊孫はふたたび階段のふたの下へひっこんだ、とすぐまたひとりの少年があらわれた。
「富士男君、ぼくにもすこしてつだわして…

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