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青年実業家
せいねんじつぎょうか
作品ID46497
著者内田 魯庵
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆75 商」 作品社
1989(平成元)年1月25日
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-11-26 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「全でお咄にならんサ。外債募集だの鉄道国有だのと一つの問題を五年も六年も担ぎ廻る先生の揃つてる経済界だもの。近ごろ君、経済書の売行が好いさうだが、何の事は無い、盗賊を見て縄を綯ふやうなもんだ。戦争以来実業が勃興したといふのが間違つてる。何が勃興してゐるもんか、更に進歩しないと云つても宜しい、畢竟空株の空相場が到る処に行はれたので一時に事業が起つたやうに見えたが、本と/\が空腹に酒を飲んだやうなものでグデン/\に騒ぎ立つた挙句が嘔吐を吐いて了うとヘタ/\に弱つて医者の厄介になると同様だ。我々の会社を見給へ、重役様がボーナスを少とでも余計握まうといふ外には何の考も無い。元来実業界の先輩と威張つてる奴らは昔からの素町人か、成上りの大山師か、濡手で粟の御用商人か、役人の古手の天下つたのか、斯ういふ連中のお揃ひだから真の文明流のビジ子スを知つてる者は無い。投機や株の売買も商売の一つだから行つても宜いが、最う些と道徳を重んじて呉れないと困る、昔から云つてる事つてすが日本人は公共思想が乏しくて商売をしても他を倒すことばかり考へて商売其物を発達せしめやうといふ考へは無い。同商売の者は成るべくトラスト流に合同して大資本を作つて大きな商売をして貰ひたいのだが、日本人同志の間では小な利慾心が邪魔をするから迚も相談が纏まらない。現に僕が関係してゐる会社では三四の同業者があるから合同して大きな工場を建てたら如何だといふ意見を持出した処が、此方の会社が十分優勢を占めてるのに以ての外だと排斥されて了つた。亜米利加では大資本家が小資本家を吸収して利益を壟断すると云つてトラストの幣を頻りに論じてるが日本では先づ当分トラストが行はれるほど進歩しない。一緒に大きく儲けやうとはしないで他人に儲けられまい儲けられまいとケチ/\してゐる。裏店根性だ……
「併し頭の禿げた連中は仕方が無いとして若い者は奈何かと云ふと、矢張駄目だ。血気盛んな奴が懐中手をして濡手で粟の工風ばかりする老人連の真似をしたがる。実業家といふと聞えが好いが近頃の奴は羽織ゴロの方に近い。立派な新教育を受けた若い連中までが斯様な怪しからない所為をしたがるから困る。例へば商業学校、あれが少しも役に立ちませんナ。元来ビジ子スは実地に経験を積んで然る後覚えられるもんで、学校の教場で教師の講義を聞いたつて解るもんぢやアない。銀行の取引実務とか手形交換の実習とか云ふものなら昔しの商法講習所位のものを置けば沢山だ。経済学や法律学なら大学で、教へてゐる、私立の専門学校もある。実際また商業学校で教へる位の片端を噛つたつて何の役に立つもんですか、無駄な事つた。此金の足りない中で、殊に経費少ない文部省が這般な無用の学校に銭を棄てるのは馬鹿げてる。第一貴処、困る事には此役に立たない商業学校の卒業生が学校を出れば一廉な商業家になつた気でゐる、高等商業学校を初め…

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