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木彫ウソを作った時
きぼりウソをつくったとき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆2 鳥」 作品社
1983(昭和58)年4月25日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-01-14 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 私は自分で生きものを飼う事が苦手のため、平常は犬一匹、小鳥一羽も飼っていないが、もともと鳥獣虫魚何にてもあれ、その美しさに心を打たれるので、街を歩いていると我知らず小鳥屋の前に足をとめる。母が生きていた頃だからもう十幾年か以前の事である。或る冬の日本郷肴町の小鳥屋の前に立って、その頃流行していたセキセイインコの籠のたくさん並んでいるのを見ていたが、どうもこの小鳥の極彩色の華美な衣裳と無限につづくおしゃべりとが、周囲のくすんだ渋い、北緯三十五度若干の東京の太陽の光とうまく調和しないように感じられて、珍らしくおもしろいとは思いながら、それほど夢中にはなれなかった。そのうちセキセイのぺちゃくちゃの騒音の間から、静かな、しかし音程のひどく高い、鋭く透る、ヒュウ、ヒュウという声が耳にはいった。店の奥の方から来るのだが、それが何だかもっと大変遠いところから聞えて来るような響をしているので、何だろうと思って店の中へ踏み込んだ。その頃私は小鳥の名などをさっぱり知らなかったので、それぞれの籠につけてある名札をよみながら鳥を見た。鶯、山雀、目白、文鳥、十姉妹などの籠の上に載っていたウソをその時はじめて詳しく観察した。さっきの声はそのウソの鳴音だったのである。
 ウソを見て一番さきに興味をおぼえたのはその姿勢と形態とであった。この小鳥は思いきった直立の姿勢でとまり木にとまっていた。むしろ後ろに反りかえっていると言ってもいい動勢を有っていた。それを見るとすぐ、あの柳の丸材で作った、亀井戸天神のウソ替のウソを思出した。柳の丸材へ横に半分鋸を入れて上からぽんぽんと二つ三つ鑿でこなし、その後ろへ削りかけのもじゃもじゃを作り、脳天を墨でぬり、眼玉を描き、ぐるりと紅で頸を撫で、胸とおぼしきところに日の丸を一つ附けた、あの原始的なウソの木彫は、実に強くこの自然の動勢に迫っている。あの木彫りのウソは実物のウソよりも、もっとほんとにウソのようだ。私はたちまち自分でもウソの木彫を作ってみたくなった。鳥屋さんのいわゆるその照りウソを一羽籠ごと求めて持ちかえった。
 私は幅二寸、奥行二寸五分の檜の角材を高さ六寸ほどに切った。それから毎日ウソを観てばかりいた。ウソは鳥屋の店の仲間の声から急にひとり引離されて、いかにもさびしそうに見えた。一日ばかりは鳴かなかったが、そのうちまたしみとおるような、細い、高い、ヒュウ、ヒュウという口笛を吹きはじめた。(その後、家雀の群を友達にさせてからこのウソの声がすっかり荒されてしまって、しまいにはチャア、チャアとばかり鳴くようになった。)ひとりで窓ぎわの籠の中でそうやって静かに鳴いている時の彼の姿勢は、ますます背をまっすぐに立て、胸を高く張り、頭だけを静かに水平に動かし、片足でとまり木にとまり、片方の足はちぢめて腹の羽毛の中へ入れてしまう。ウソの面相は、雀や文鳥のように嘴…

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