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良夜
りょうや
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆58 月」 作品社
1987(昭和62)年8月25日
入力者土屋隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2006-11-10 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




良夜とは今宵ならむ。今宵は陰暦七月十五夜なり。月清く、風涼し。
夜業の筆を擱き、枝折戸開けて、十五六歩邸内を行けば、栗の大木真黒に茂る辺に出でぬ。其蔭に潜める井戸あり。涼気水の如く闇中に浮動す。虫声※々[#「虫+慈」、62-6]。時々白銀の雫のポタリと墜つるは、誰が水を汲みて去りしにや。
更に行きて畑の中に佇む。月は今彼方の大竹薮を離れて、清光溶々として上天下地を浸し、身は水中に立つの思あり。星の光何ぞ薄き。氷川の森も淡くして煙と見ふめり。静かに立ちてあれば、吾側なる桑の葉、玉蜀黍の葉は、月光を浴びて青光りに光り、棕櫚はさや/\と月に囁やく。虫の音滋き草を踏めば、月影爪先に散り行く。露のこぼるゝなり。籔の辺りには頻りに鳥の声す。月の明きに彼等の得眠らぬなるべし。
開けたる所は月光水の如く流れ、樹下は月光青き雨の如くに漏りぬ。歩を返へして、木蔭を過ぐるに、灯火のかげ木の間を漏れて、人の夜涼に語るあり。
枝折戸閉ぢて、椽に踞す程に、十時も過ぎて、往来全く絶へ、月は頭上に来りぬ。一庭の月影夢よりも美なり。
月は一庭の樹を照らし、樹は一庭の影を落し、影と光と黒白斑々として庭に満つ。椽に大なる楓の如き影あり、金剛纂の落せるなり。月光其滑らかなる葉の面に落ちて、葉は宛ながら碧玉の扇と照れるが、其上にまた黒き斑点ありてちら/\躍れり。李樹の影の映れるなり。
月より流るゝ風梢をわたる毎に、一庭の月光と樹影と相抱いて跳り、白揺らぎ黒さゞめきて、其中を歩するの身は、是れ無熱池の藻の間に遊ぶの魚にあらざるかを疑ふ。



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