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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
副題41 蘆の葉のおもちゃのはなし
41 あしのはのおもちゃのはなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-10-13 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 暫く話を途切らしたんで、少し調子がおかしい……何処まで話したっけ……さよう……この前の話の処でまず一段落附いたことになっていた。これからは、ずっと、私の仕事が社会的に働きかけて行こうという順序になるので、私の境遇――生活状態もしたがってまた実際的で複雑になって行くことになりますが、話の手順はかえって秩序よく進んで行くことと思う。

 ところで、今日は暫くぶりであったから、無駄話を一つ二つして、それから改めてやることにしましょう。この話は堀田原の家を師匠が売ったについて、寿町へ立ち退いた時代で、明治十二年の頃、父兼松が六十一、二、私が二十六、七という時、随分他愛もない話であるが、私の記憶には印象の深いものとなっている。……東京の年中行事の一つである鳥の市で熊手を売ったという話や、葦の葉の虫のおもちゃを売った話など……今日、こうして此所に坐っておってその当時のことを考えると不思議な気がします。

 私の父兼松は、もはや還暦に達した老人となったが、至極達者なもので、私が一家のことをやっているので、隠居で遊んでいてもよろしいのであるけれども、始終、何かしら自分で働くことを考え自分の小遣い位は自分で稼いでいる、何といって取りとまったことはないが、前申す如く、大体器用な人で手術は人並みすぐれている所から、何かしら自分の工夫で小細工をやって見たい。安閑としてぶらり遊んでいることは嫌いで必ずしも自分の仕事が銭にならなくても、手と脳とを使って自分の意匠を出して物を製えて見ようというのである。それで孫が出来れば、孫のためにおもちゃをこしらえる。引っ越しをすれば、越した先の家の破損を繕う。籬を結い直す。羽目を新しくする、棚を造るとか、勝手元の働き都合の好いように模様を変えるとか、それはまめなもので、一家に取って重宝といってはこの上もない質の人でありました。
 それに、元来、稼ぐという道は若い時から苦労をしているから充分に知っている。手術が持ち前で好き上手であるので、道楽半分、数奇半分、慾得ずくでなく、何か自分のこしらえたものをその時々の時候に応じ、場所に適めて、売れるものなら売って見ようというのが父兼松のその頃の楽しみの一つでありましたが、それも買い手が気持よく自分の趣向をおもしろいと思って喜んで買って行けばよし、そうでなければ売る気もない。元手と利益を勘定ずくにしてやる商売ではなく隠居の道楽に、洒落で何か人の気を「なるほど、これは、どうも、おもしろい。好い趣向だ」と感心させて見たいという気分で、これがこの老人に随いて廻った癖でありました。

 それで、ドンなものを父は製えるかというと、この前話した火消し人形のようなものから、いろいろ妙なものがありますが、その中で、夏向きになって来ると、種々な虫の形を土で拵えて足は針金で羽根は寒冷紗または適当な物で造り、色は虫その物によって彩色…

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