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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID46544
副題42 熊手を拵えて売ったはなし
42 くまでをこしらえてうったはなし
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-10-13 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 こういうことが続いていたが、或る年、大分大仕掛けに、父は熊手を拵え出しました。
 鳥の市でなくてならないあの熊手は誰でも知っている通りのもの。真ん中に俵が三俵。千両函、大福帳、蕪、隠れ蓑、隠れ笠、おかめの面などの宝尽くしが張子紙で出来て、それをいろいろな絵具で塗り附ける。枝珊瑚などは紅の方でも際立ったもの、その配色の工合で生かして綺麗に景色の好いものとなる。この方は夏の中から拵えますが、熊手になる方の竹は、市の間際にならないといけない。これは青い竹を使うので、枯れていては色が死んでおもしろくない。五寸、六寸、七寸、尺などという寸法は熊手の曲った竹一本の長さできまる。いずれも竹の先を曲げて物を掻き込む形となって縁起を取るのであるが、その曲げようにも、老人の語る処によると、やはり手心があって、糸などを使って曲げを吊っていたり、厚ぼったかったりするのは拙手なので、糸なしで薄くしまって出来たのが旨いのだなどなかなかこんなことでも老人は凝ってやったものです。

 一本一本出来て数が積り、百本二百本というようになると、恐ろしく量張って場所ふさげなものです。しかしまた数が積って狭い室一杯に出来揃った所は賑やかで悪くもないものです。そのいろいろの飾り物の中で、例のおかめの面、大根じめ、積み俵は三河島が本場(百姓が内職にしている)だから、そっちから仕入れる。熊手の真ん中にまず大根締めを取り附け、その上に俵を三俵または五俵真ん中に積み、その後に帆の附いた帆掛け船の形が出来て、そのまわりにいろいろな宝が積み込んであるように見せて、竹の串に刺して留めてある、ちょうど大根締めと俵とに刺さるようになるのです。そうして、金箔がぴかぴかして、帳面には大福帳とか大宝恵帳なぞと縁喜よい字で胡粉の白い所へ、筆太に出し、千両函は杢目や金物は彩色をし、墨汁で威勢よく金千両と書くのです。
 こんな風だから、相当これは資本が掛かります。なかなか葦の葉の玩具のように無雑作には参らぬ。日に増し寒さが厳しく、お酉様の日も近づくと、めっきり多忙しくなるので、老人は夜業を始め出す。私も傍で見ている訳にいかず自然手伝うようになる。家内中、手が空いた時は老人の仕事を手伝い手伝い予定の数へ漕ぎ附けました。

 当日が来る。
 お酉様の境内、その界隈には前日から地割小屋掛けが出来ている。平生は人気も稀な荒寥とした野天に差し掛けの店が出来ているので、前の日の夜の十二時頃から熊手を籠長持に入れて出掛けるのですが、量高のものだから、サシで担がなければなりません。その片棒を私がやって、親子で寿町の家を出て、入谷田圃を抜けて担いで行く。
 御承知の通り大鷲神社の境内は狭いので、皆無理をして店を拵える。私たちの店は、毎年店を出す黒人が半分池の上に丸太を渡しその上に板を並べ、自分の店を拵えてその余りを、私の父が借りました。場所がよく…

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