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恋愛と道徳
れんあいとどうとく
著者
翻訳者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第四巻 翻訳」 學藝書林
2000(平成12)年12月15日
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2008-10-20 / 2014-09-21
長さの目安約 52 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 恋愛のために個人の幸福と社会の安寧とが屡々衝突する事がある。此の時に現在の義務と云ふ観念が社会に対する個人の絶対無条件の犠牲を要求する。私共はこういふことを屡々耳にする――凡そ国家として欠くべからざるものは健全なる父母であり、而して彼等の確固たる永久の結合はその子孫の教育を安全ならしむるものである。さうして、此要求が個人の幸福に対して干渉する場合には、個人は何時でも犠牲の位置に立たなければならない。この個人が禍を蒙むると云ふことが直ちに結婚の覊絆をゆるめなければならぬといふ理由にはならない。而して両親の大多数が子供と云ふものは家庭に於て最もよく養育せられるものであると云ふ意見を抱いてゐる間はその様な理由は確かに成り立ちはしないのである。であるから国家といふものは結婚制度の変化如何に由て何等の影響をも蒙むるものではない。又離婚を容易ならしむると云ふことが人間の密接なる関係によつて常に生ずる不和合の原因を除去する手段にもならない。仮令現在の結婚制度が最も進歩発達したる階級にある男女の要求に背くものであつても、かの、少数を利し多数に有害なる革新と、多数を利し少数に禍する現在の制度とを比較選択する場合にあたつては全体として社会を利する現状を認容しなければならない。現代に於て離婚を容易ならしむるは徒らに離散を事とし、結婚制度を極めて放肆なるものと化し、その結果として、先づ家庭は破壊せられ次で国民の滅亡を惹き起すに至るのみである。故に幸福を要求する恋愛は国家の安寧秩序を破壊する純然たる叛逆である。幸福は恋愛個人主義によつて遂行せられるといふ理論は歴史と人種誌と自然との等しく加担せぬところである。而して静かなる克己と勇気ある義務の完成とが常に教へられなければならない。子供の出生と共に、その両親の幸福は停止せられなければならない。若し両親にして自己の幸福を犠牲にしない時は自然はその法則によつて彼等の罪を子供に報ひ、以て彼等の義務の怠慢を罰するであらう。
 斯くの如きものが所謂世俗の義務論である。この義務論は独り恋愛ばかりでなくその他の人間の関係にも種々なる影響を及ぼしてゐる。而してこの議論中にひそむ大なる誤謬は社会の安寧秩序は必然に個人の犠牲によつて成就せられると云ふ観念である。而してこの理論を明かにする為めに挙げらるゝ証拠も亦等しく虚偽である。かの歴史と謂ひ人種誌といふものゝ示めすところは我々が人性と呼ぶものゝ所作にすぎない。而して人性なるものは元来時代と国民性と風土につれて絶えず変化する現象である。その現象によつて見るに『自然』なるものは一面に命ずる処を他面に禁じ、一方に否定せられる時はそれを他方に要求してゐる。仮令へば仏蘭西に於て今日最も進んだ非離婚論の如きは『再婚は自然に反す』とか『婦人は家庭以外に於て決して真の母たる能はず』とか或は『家庭は吾人の理性によつて左右…

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