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死んだ魂
しんだたましい
著者
翻訳者伊藤 野枝
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 伊藤野枝全集 第四巻 翻訳」 學藝書林
2000(平成12)年12月15日
初出「労働運動(第三次) 第八号」1922(大正11)年10月1日
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2009-07-07 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 今から百年以前、ゴオゴルは其の傑作『死んだ魂』で同国人を驚かした。それは、ロシアの封建制度と其の寄生虫共を仮借なく非難したものであつた。『死んだ魂』は再びロシアの生活に帰つて来た。
 誰が現代の死んだ魂か? それは実際を話す方が一番はつきりするだらう。何処の託児所も、寄宿学校も、感化院も――実際子供と大人とが住んでゐる何処のさうした所にでも、――寄宿舎の数だけ、食物や着物や定食糧やを取る権利を与へられてゐる。
 総ての学院では中央分配局の供給にたよつてゐる。或る学院のために必要などんなものを手に入れるにも先づ二十人も三十人ものチノヴニキ、即ち役人の署名と副署とのついた幾つもの命令書を貰はなければならない。
 チノヴニキは、型のやうに、何かの賄賂を受け取るまでは、手を延引させておく。そこで其学院の人間の実際の数よりはずつと多い人間のための命令を貰はなければならない事になる。そして其の『余分のもの』は賄賂ともなり、同時に又其の学院の飢えた友達のためのものとなるのだ。
 たとへば、私の友達の学校には六十五人の子供達がゐる。以前の舎監達はみんな架空の人の名前――死んだ魂――を学校の子供達の実際の統計に加へてゐた。かうして手に入れた其の余分の食糧を賄賂に使つて、其のお蔭で舎監達は其の仕事を早く運ぶ事が出来た。学校の主事等はかうしていろんな役所の『勢力のあるもの』に賄賂を使つてゐるので、其の仕事をサボつたり、子供を放つておいたりまた濫用したりしても、或は又往々寄宿生の為めに貰つた食料で投機をしても、ちつともかまはないのだ。彼等は『上の方の友達』を持つてゐるのだ。

     二

 ロシアの到る処に行はれてゐる此の面白いやり方の結果は、勿論明かな事だ。が、私の友達は、そんな事の仲間にはなれなかつた。彼女は『死んだ魂』を加へる事を拒んだ。
 彼女は、其の地方の無数の検査官や、試験官や、懲治官等に賄賂を使ふことを拒絶した。其の結果は、此の悪事に反対する、長いそして苦い争ひとなつた。そして其の争ひは、彼女の健康を害し、結局彼女を其の地位から除いて、文字通りに街頭に投げ出した。彼女はペトログラアド教育課長である『同志』マダム・リリナの注意を呼ばうと試みたが、無駄だつた。彼女は会はなかつた。彼女は決して私の友達の学校を訪ねた事はなかつた。『見世物』学校に彼女の全時間をとられてゐたのだ。マダム・リリナは、私の友達の話を信用しなかつたのだ。共産主義者に対する不平を云ふ『局外者』に注意を払ふ事は先づない事なのだ。そして、又、同時に、そんな事に係はるのは危険な事なのだ。

     三

 最初私は『死んだ魂』が一般に行はれてゐる方法だと云ふ事を信ずるのを拒んだ。『ソヴイエツトの第一の家』ホテル・アストリアで私の隣室に、一人の小さい婦人が二人の子供と住んでゐた。彼女は共…

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