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錬金詐欺
れんきんさぎ
作品ID46588
著者小酒井 不木
文字遣い新字新仮名
底本 「幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選」 光文社文庫、光文社
2001(平成13)年2月20日
初出「探偵文藝 第2巻第1号」奎運社、1926(大正15)年1月号
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2006-12-18 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 詐欺は昔から錬金術の附き物になって居る。既に錬金術そのものが、金がほしいという動機が主となって企てられたものであるから、詐欺と縁の深いのは当然のことである。尤も、錬金術の抑もの起りは必ずしも黄金製造のためではなかった。即ちその濫觴ともいうべきは古代エジプトに於ける金属の染色術に外ならなかったのである。古代エジプトに於ては紫と黒の二色が尊ばれ、織物の染色と共に、主として僧侶の手によって寺院内で行われたのであるが、後にアラビア人が埃及を占領するに及んで、金属の染色だけでは満足せず、卑金を黄金に変化せしめる術を錬金術と呼ぶに至ったのである。
 卑金を黄金に変ずる力を有するものを、欧州では昔から「哲学者の石」と呼んで居る。これは、錬金術師たちが、自分たちに箔をつけるために、錬金術の元祖はみなプラトンやアリストテレスの門人だと言い触らしたためであって、後には「哲学者の石」について段々虫のよい解釈が下され、「哲学者の石」は一方に於て人間をして不老長生ならしめるものだと考えられるに至った。だから西洋中世の有名な学者達はいずれも「哲学者の石」の発見に浮き身を窶し、中にはそれを捜し当てたといい、パラセルズスはルビー色をしたものだと告げ、ワン・ヘルモントは硝子のような光沢をしたサフランのようなものだと記述した。が、いう迄もなくそれはみな出鱈目に過ぎなかったのである。
 けれど、金が欲しい、長生がしたいという慾望はいつの代にも絶えない。だから金のある者は、頭のよい人間を選んで、錬金術を研究させたのである。時には頭のよいものが、金持ちに泣きついて、必ず「哲学者の石」を発見して見せるから金を出してくれと頼んだ。然し、一年かかり、二年かかっても、もとより目的を達することが出来ず、結局は金の浪費に終るのが常であった。
 そうなって見ると、頭がよくて悪智慧の働くものには、錬金術を種にして、富豪の金を搾ってやろうという恐ろしい考えが浮ぶ。即ちここに錬金詐欺が発生する訳である。十六世紀の頃、ドイツ皇帝ルドルフ二世は、最も大きな錬金術のパトロンであったから、彼の宮殿には欧州各国の錬金術師が集って来たが、その多くは錬金詐欺師に外ならなかった。ある時英国のケンブリッジの学者ジョン・ディーが助手のエドワード・ケリーを連れ、遥々、帝の宮殿をたずね、自分たちは鉛を金に変える術を知って居ると物語った。そこで帝は大に喜んで、早速実験させたところ、果して鉛を金に変ずることが出来た。その実、彼等は携えて来た光輝ある石を示して帝を催眠術にかけ、まんまと欺いたのである。彼等はそれによって沢山の報酬を貰い、ディーは化の皮のあらわれぬうちに英国へ逃げ帰ったが、助手のケリーはボヘミアの地主となりすまして居たため、後に、詐欺だということが明かとなって、帝のために殺された。
 有名なサン・ゼルマン伯や、カリオストロ伯なども、…

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