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茶話
ちゃばなし
作品ID46596
副題01 大正四(一九一五)年
01 たいしょうよ(せんきゅうひゃくじゅうご)ねん
著者薄田 泣菫
文字遣い新字旧仮名
底本 「完本 茶話 上」 冨山房百科文庫、冨山房
1983(昭和58)年11月25日
初出「大阪毎日新聞 朝刊」1915(大正4)年2月27日~3月20日
入力者kompass
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2013-06-10 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


茶話
2・27

 フランク・ハリスと云へば聞えた英国の文芸家だが、(ハリスを英人だと言へば或は憤り出すかも知れない、生れは愛蘭で今は亜米利加にゐるが、自分では巴里人の積りでゐるらしいから)今度の戦争について、持前の皮肉な調子で、「独逸は屹度最後の独逸人となるまで戦ふだらう、露西亜人もまた最後の露西亜人となるまで戦ふだらうが、唯英吉利人は――さうさ、英吉利人は最後の仏蘭西人がといふところまでは行るに相違ない」と言つてゐる。流石にハリスで、よく英吉利人を視てゐる。


茶話
3・1

「吾等は世界に唯一つの健康を与へて呉れる戦争を歌はうと思ふ。軍国主義、愛国心、アナアキストの捨鉢な行為、人殺しの美しい思想、そしてまた婦人に対する侮蔑――かういふものを凡て歌ひたい。」――未来派の詩人マリネツチはこんな事を言つたが、他の事は兎に角、婦人に対する侮蔑を思はせるだけでも、戦争は吾々にとつて鉄剤同様一種の健康剤たるを失はない。


茶話
3・4

 トルストイの『アンナ・カレニナ』の終りの章に多くの人が蜂小屋の近くで塞耳維戦争の噂をしてゐるところがある。その時或人が好戦論者を戒めるために普仏戦争の前アルフオンス・カアルの言つた言葉を引証してゐる。――「戦争が何うでも避ける事が出来ないものならそれもよからう。だが、そんな場合には戦争論を唱へた新聞記者だけには是非とも一隊を組ませ、どこの戦闘にも前衛としてそれを使ふ事にしたいものだ。」と言ふのだ。欧洲出兵論も誠に結構だが、どうかそんな場合には黒岩涙香君のやうな出兵論者は、誰よりも先に前衛の一人として出掛けて貰ひたいものだと思ふ。カタヴソウでは無いが、私はこの名誉ある選抜兵の後姿を想ふ毎に、腹を抱へて吹き出さぬ訳に往かない。


茶話
3・9

 私の故郷は瀬戸内海の海つ辺で、ヂストマと懶惰漢と国民党員の多い所だが、今度の総選挙では少し毛色の異つた人をといふので、他の県で余計者になつた男を担ぎ込み、それに先輩や知人の紹介状を附着けてさも新人のやうに見せかけてゐる。ゴオゴリの『死霊』を読むと、名義だけは生きてゐるが、実は夙に亡くなつてゐる農奴を買収し、遠い地方へ持ち込んで、そこで銀行へ抵当に入れて借金をする話が出てゐるが、今の選挙界の新人も一寸それに似てゐる。


茶話
3・20

 デイケンスは『ぴくゐつく・ぺえぱあす』のなかで、「被告の身にとつては人の好い、福々した、朝餐を甘く食べた裁判官に出会すといふ事が大切だが、原告になつてみると、平常も不満足たらしい、腹の減つた裁判官を見つけるやうにしなくてはならない」と言つた。この頃議員候補者や、その運動者がぴし/\引張られてゐるが、皆有罪の判決を受けてゐる所を見ると、可憎と腹の減つた、家では夫婦喧嘩の絶間が無い裁判官が多いと見える。



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