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気のいい火山弾
きのいいかざんだん
作品ID46606
著者宮沢 賢治
文字遣い新字新仮名
底本 「注文の多い料理店」 新潮文庫、新潮社
1990(平成2)年5月25日
入力者蒋龍
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-04-10 / 2014-09-21
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、永いことじぃっと座っていました。
「ベゴ」と云う名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、稜のあるあまり大きくない黒い石どもが、つけたのでした。ほかに、立派な、本とうの名前もあったのでしたが、「ベゴ」石もそれを知りませんでした。
 ベゴ石は、稜がなくて、丁度卵の両はじを、少しひらたくのばしたような形でした。そして、ななめに二本の石の帯のようなものが、からだを巻いてありました。非常に、たちがよくて、一ぺんも怒ったことがないのでした。
 それですから、深い霧がこめて、空も山も向うの野原もなんにも見えず退くつな日は、稜のある石どもは、みんな、ベゴ石をからかって遊びました。
「ベゴさん。今日は。おなかの痛いのは、なおったかい。」
「ありがとう。僕は、おなかが痛くなかったよ。」とベゴ石は、霧の中でしずかに云いました。
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」稜のある石は、みんな一度に笑いました。
「ベゴさん。こんちは。ゆうべは、ふくろうがお前さんに、とうがらしを持って来てやったかい。」
「いいや。ふくろうは、昨夜、こっちへ来なかったようだよ。」
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」稜のある石は、もう大笑いです。
「ベゴさん。今日は。昨日の夕方、霧の中で、野馬がお前さんに小便をかけたろう。気の毒だったね。」
「ありがとう。おかげで、そんな目には、あわなかったよ。」
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」みんな大笑いです。
「ベゴさん。今日は。今度新らしい法律が出てね、まるいものや、まるいようなものは、みんな卵のように、パチンと割ってしまうそうだよ。お前さんも早く逃げたらどうだい。」
「ありがとう。僕は、まんまる大将のお日さんと一しょに、パチンと割られるよ。」
「アァハハハハ。アァハハハハハ。どうも馬鹿で手がつけられない。」
 丁度その時、霧が晴れて、お日様の光がきん色に射し、青ぞらがいっぱいにあらわれましたので、稜のある石どもは、みんな雨のお酒のことや、雪の団子のことを考えはじめました。そこでベゴ石も、しずかに、まんまる大将の、お日さまと青ぞらとを見あげました。
 その次の日、又、霧がかかりましたので、稜石どもは、又ベゴ石をからかいはじめました。実は、ただからかったつもりだっただけです。
「ベゴさん。おれたちは、みんな、稜がしっかりしているのに、お前さんばかり、なぜそんなにくるくるしてるだろうね。一緒に噴火のとき、落ちて来たのにね。」
「僕は、生れてまだまっかに燃えて空をのぼるとき、くるくるくるくる、からだがまわったからね。」
「ははあ、僕たちは、空へのぼるときも、のぼる位のぼって、一寸とまった時も、それから落ちて来るときも、いつも、じっとしていたのに、お前さんだけは、なぜそんなに、くるくるまわったろう…

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