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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID46639
副題47 彫工会の成り立ちについて
47 ちょうこうかいのなりたちについて
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-01-08 / 2014-09-18
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この頃になって一時に種々の事が一緒に起って来るので、どの話をしてよろしいか自分ながら選択に苦しみますが、先に日本美術協会の話をしたから、引き続き、ついでに東京彫工会のことについて話します。

 東京彫工会というものの出来たのは、妙なことが動機となって出来たのであります(ちょっと断わって置きますが、その当時の彫刻家は全部牙彫という有様であった)。その彫刻界に一つの刺撃が与えられそれが導火線となってこの会が起ったのであります。一方に既に美術協会が成立し、それがますます盛大になっているのであるから、この際別に彫工会というような会の起る必要を感じない訳であるが、それが出来なければならない機運となって来ました。この彫工会発会のことについては私は木彫家のことで関係は薄い。私が当面に立って立ち働いたという訳でもないのであるが、当時の牙彫界には友人の多い関係から多少助力をしたことであるからその行きさつを話して置きます。

 この事は、最初は象牙彫刻の方の人たちのいさかいから初まる……というもおかしな話ですが、まずそういった形であった。
 当時、牙彫の方は全盛期であるから、その工人も実に夥多しいもので、彫刻師といえば牙彫をする人たちのことを指していうのであると世間から思われた位。この事は前に度々申したが、その中で変り者の私位が木の方をやっている位のものであって、ほとんど全部が牙彫であった。で、こう物が盛んで流行り出せば、何んの業にもあることであるが、その工人仲間の人々の中に党派とか流派とかいうようなものが出来て、同じ牙彫の工人の中でも、比較的上等なものを取り扱って、高尚な方へかたまっている人たちと、牙彫商人の売り物にはめて、貿易向き一方をやり、出来栄は第二にして、まず手間にさえなればよろしいという側の人たちと、こう二つの派に別れば分けられるといった形になって来る。前のは、なかなか商人のいうままにはならない。自分で一己の了見があって、製作本位に仕事をする。つまり先生株の人たちであり、後のは、何処までも職人的で手間取りが目的、商人のいうままにどうともなろうという側である。こうまず二派に別れるのでありますが、その高尚の方の先生株には、旭玉山氏、石川光明氏、島村俊明氏などを筆頭として、その他沢山ありますが、この人たちがまず代表的の人、いずれも商人の方で一目置いている。一方は商人に使われる組で、一口にいえば売り物専門で貿易目的である。この方もなかなか旺んにやっている人たちがあって、その大将株の親方が谷中に住まっておった。なかなか勢力があったもので、商人との取引も盛んなところから弟子や職工を沢山使っている。牙彫界ではこれを谷中派と称しておったのです。

 ところで、当時、東京府(多分府であったと思う)の仕事の中に諸職業の組合組織というものを許可することになった。それはそれらの団体が一塊…

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