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怪談綺談
かいだんきだん
作品ID46678
著者小酒井 不木
文字遣い新字新仮名
底本 「探偵クラブ 人工心臓」 国書刊行会
1994(平成6)年9月20日
初出「講談倶楽部」1928(昭和3)年3月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-10-31 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     はしがき

 伽婢子の昔から日本も随分怪談に恵まれているが、その話は多くは似たり寄ったりで、事実談として紹介されているものも大抵千遍一律である。で、私はこれから西洋の文献を探していささか変ったところを紹介しようと思う。

     恐ろしい額

 ガリチアの山奥に美しい古い城がある。これはその地方を統轄しているラ伯爵の居城であって、伯爵には子供がなく、姪のアグニスを引き取って養女とした。
 この城は古風な作りで伯爵の居間と、子供部屋とは大きな広間でへだてられ、あちらこちら往来するにはどうしてもその広間を通らねばならなかった。もしその広間を通らないようにするならば、一たん庭へ出て戸外を歩くより外はなかったのである。
 さてアグニスが伯爵の養女となったのは六歳の時だったが、彼女はその広間を通るたんびにいつも顔色を変え大声を挙げて泣き叫んだ。と言うのは、その広間のドアーの上に、かのギリシャ神話の中のシビルの絵が額にして掛けてあったからで、別に何も怕いところはないのに彼女だけは、いわば虫の好かぬとでも言うのか、その絵を限りなく恐れたのである。
 はじめ人々は彼女がただ子供心に何の意味もなく恐れるのであろうと、いろいろになだめても見たが、彼女のその額に対する恐怖は無くなるどころか年を追うて激しくなって行った。で、仕舞いには彼女はその広間を通らぬようにして雨が降っても雪が降っても、伯爵の居間へ往復する時は、必ず庭を通るのであった。
 そういう状態が凡そ十年も続いているうちに、彼女は良縁があって養子を迎えることになった。そうしてその結婚披露が伯爵の居城で華々しく行われた。夕方になって彼女は幸福そうに多くの客に囲繞まれて、はしゃぎ廻っていたが、何を思ったか彼女はふと十年も通らぬ広間へ這入って見たくなった。多分大勢の人々と一緒であるから心強く思ったことであろう。先登に立ってつかつかと広間のドアーを開けて薄暗い部屋の中へ進んだ。
 ところが一歩踏み入れるなり、彼女はさっと顔色を変えて、たじたじと後退った。人々はもとよりその理由を知らないから、多分彼女がお芝居をしているのであろうと、大いに笑って後退った彼女を無理に再び中へ押込んで、あまつさえドアーを立てて錠を下ろしてしまった。
 次の瞬間彼女は悲鳴をあげて、ドアーを開けるべく力任せにゆすぶっていたが、やがてガチャンという物の落ちる音がして、そのままばったり静寂に返ったので、人々は気味が悪くなってドアーを開いてみると、哀れにも彼女は上から落ちて来たシビルの絵の額に脳天を打ち砕かれ血溜りをつくって死んでいた。

     木乃伊の祟り

 エジプトの王朝時代の墓を掘り出すものは必ず祟りを受けて不幸を受けたり死んだりするという言い伝えがある。のみならず発掘されてから諸方へ運ばれた木乃伊がその行先でいろいろな祟りを起したという…

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