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雪子さんの泥棒よけ
ゆきこさんのどろぼうよけ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集7」 三一書房
1970(昭和45)年1月31日
初出「月刊探偵 2巻5号」1936(昭和11)年6月
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-08-17 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 夜中に雨戸のところでゴリゴリと音が始まりました。家中で雪子さんがたった一人眼をさまして、何だろうと思いました。鼠ではなく、どうしても人間が何かしているとしか思われませんでした。雪子さんは急いでお父さんとお母さんをゆすり起しましたが、なかなかお起きになりません。そのうちにゴリゴリと物を削る音が一そう高くなったようです。雪子さんはどうしようかと思いました。
 音のするところへ行って見ると、雨戸の掛金のところを外から泥棒が切り破っているのです。雪子さんがそこらを見まわしますと、玩具のバケツがありましたから、そっとそこへ押し当てました。
 そのうちに泥棒が雨戸を切り破って来ると、何か固いものがあります。小刀で突いて見るとカンカン音がします。雪子さんはおかしくなりました。
 泥棒がどこかへ行ったと思ったら、今度は台所の方へ音が廻りました。雪子さんは又、そこへジッと押し当てて待っていました。泥棒は又カンカンと言う物に行き当りました。
「馬鹿に用心のいい家だナ。まさか家中、金で張ったるんじゃあんめえ」
 と言いながら、今度はお座敷の床の間の壁のまん中をゴリゴリ始めました。
 この時、お父さんとお母さんは眼をさまして御覧になると、雪子さんは寝床の中にいません。そして床の間を見ると、玩具のバケツを壁に押し当てています。外からはゴリゴリと壁を破る音……。
 お父さんとお母さんは、初めはビックリしましたが、すぐに訳がわかり、雪子さんの勇気に大そう感心しました。なおも様子をジッと見ていますと、泥棒はとうとう厚い壁を切り抜いて、もういいと思って小刀の先で突いて見ると、どうでしょう。壁のまん中でもやはりカンカンカンと音がします。泥棒は腰を抜かさんばかりに驚きました。そしてため息をして言いました。
「これは驚いた。家中すっかり金張りだ」
 家の中で、雪子さんとお父さんとお母さんとが一どきに笑い出しました。
「アハハハハハハ」
「オホホホホホホ」
「ウフフフフフフ」
 泥棒は夢中になって逃げ出すと、すぐに通りがかりの巡査さんに捕まりました。



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