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キューピー
キューピー
作品ID46710
著者夢野 久作
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集7」 三一書房
1970(昭和45)年1月31日
初出「九州日報」1922(大正11)年11月27日
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-08-05 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 アメリカ生まれのキューピーがいなくなったので、おもちゃ箱の中は大変なさわぎがはじまりました。日本のダルマさんが向う鉢巻でタワシ細工の熊に乗っていの一番に飛び出す。あとから独逸生まれのブリキの兵隊が木造りの自動車で駈け出す。仏蘭西生まれの道化人形は英国生まれのねむり人形と一緒にそのあとから走り出す。みんな出て行っておもちゃ箱は空っぽになりました。
 ダルマさんが、敷居の処を通りかかった鼠に、キューピーさんはどこへ行ったか知らないかと尋ねますと、鼠はチューチューと笑いながら、
「それはきっと、この頃この家へ来た小さな三毛猫がおもちゃに持って行ったのだろう」
 と言いました。ソレッと言うので、縁側で日なたぼっこをしている三毛猫を捕まえてダルマさんが睨みつける。兵隊さんが剣付き鉄砲を突きつけて、キューピーをどうしたかと聞くと、三毛猫はビックリして顔を撫でて、
「イイエ、ニャンにも知りません。私はお嬢さんの帯だの鞠だのはおもちゃにしましたが、まだキューピーはおもちゃにしたことはありません。おおかたそれは鼠さんが私をここから追い出すためにそんなわるい事をしたのでしょう」
 と言いました。
 皆は成る程と気がついて、直ぐに天井裏へかけ上って方々を捜しますと、隅っこの方でキーキーピイピイ泣く声が聞こえますので、ソレッと言って馳せつけました。
 みるとかわいそうに、キューピーはお腹も何もピシャンコになって、青い眼を泣き腫らして寝ています。みんなは大喜びで連れて帰って、寄ってたかって介抱をして、もとの通りにふくらましてやりました。
 三毛猫はその後大きくなって、家中の鼠を皆捕って殺してしまいました。



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