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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
副題55 四頭の狆を製作したはなし
55 よんとうのちんをせいさくしたはなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-02-22 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 いよいよ狆の製作が出来ました。
 先のと、それから「種」のモデルの方が三つです。一つは起って前肢を挙げている(これは葉茶屋の方のです)。一つは寝転んでいる。一つは駆けて来て鞠に戯れている。今一つは四肢で起っている所であった。この四つの製作はいずれも鋳物の原型になるのであるから、材料を特に木彫りとして勘考することもいらぬので、私は檜で彫ることにしました。いうまでもなく、檜の材はなかなか鑿や小刀を撰むもので、やわらかなくせに彫りにくいものですが、材としては古来から無上のものとなっている。荒けずりから仕上げに掛かり、悉皆出来上がって、彫工会へ納めました。
 木型が出来ましたので、大島如雲氏はそれを原型として鋳金にしましたが、なかなか能く出来て、原型をさらに仕生かすほどの腕で滞りなく皇居御造営事務局の方へ納まりました。私は、すなわち鋳物の原型を作ったというにとどまるわけであった。

 そこで、毎度余り物の値を露わにいうようでおかしいが、これも参考となるべきことですから、いって置かねばなりませんが、私の原型を作った手間がどうかといいますと、狆の丸彫り四つで百円であった。一つが二十五円……今日の人が聞くと不思議と思う位でありましょう。その当時、檜の最良の木地が一つで一円五十銭二円もしたか。材料などのことは何とも思わない時分、今日で見れば木の値にも及ばぬ位のものでありましょう。しかし技術家としてはそういう問題は別のことで、製作に掛かってはただ一向専念で、出来るだけ腕一杯、やれるだけ突き詰めて行くことで、随分私もこの時は苦心をしました。彫工会の方でも余り気の毒だというので後で五十円御礼が参りました。
 四頭の狆の製作は、彫工会の幹部の人たち、また実技家の方の人々の見る所となりました。私が、自分の口からいうのはおかしいけれども、これは大変に評判がよかった。というのは、第一見た所がいかにも派手で、鮮やかで、しかも図の様が変って珍しい。非常に綺麗なものであるから見栄がある。材が檜であるから水々しく浮き立っている。これを見て幹部の人々もよろこんだことでありましたが、しかし、今日から見れば、まだまだすべてが幼稚なもので、今であったら彫り直したい位に感じますが、当時はこうした作風はまず嶄新であって、動物を取り扱うことはこれまでもあるとしても、その行き方が従来の行き方と違って、実物写生を基として何処までも真を追窮したやり方でありますから、本当のものを目の前に出されたような気が観る人にも感じられて「これはどうも」といって感服されました。
 私は、今も申した如く、人より早くから写生ということを心掛け、西洋の摺り物のようなものから物の形を像ったものは何んでも参考材料とし、一方にはまた自然に面して自然をそのまま写して行くことを長い間研究したことでありますが、……しかし、これもまだ解剖的に内部を…

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