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季節の味
きせつのあじ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「垢石釣り随筆」 つり人ノベルズ、つり人社
1992(平成4)年9月10日
初出「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-07-15 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 物の味は季節によって違う。時至れば佳味となり、時去れば劣味となる。魚も獣も同じである。七、八両月に釣った鰔は、肉落ち脂去って何としても食味とはならない。十二月過ぎてからとった鹿は、肉に甘味を失って珍重できないのである。
 日本人の食品材料は、およそ四百種あるそうである。それに、病的といおうか悪食といおうか、いも虫、ヒル、みみずの類を生のまま食う者があるが。これらを加えたならば驚くべき数に達するであろう。その一つ一つの、食味の季節を調べてみたならば余程面白いことに違いない。
 味の季節を知る者がいわゆる食通であって、料理の真髄を語り、弄庖の快を説く者は必ず物の性質をきわめておかねばならない。そうであるとするならば、いも虫、みみずも、ヒルも珍饌として味の季節を持っているであろうか。
 物の盛期、必ずしも味の季節でないことは分かっている。稔熟の候を味の季節とし、他に多少の例外を求めることができるが、動物に至ってはいわゆる世人が口にする季節が味の季節ではないのである。
 どこの家庭で、鯛を求めるにしても五、六月の候が最も値段が安い。それは四季を通じて一番漁獲が多いからである。漁獲の多いことが味の季節ではない。その頃の鯛は麦藁鯛といって、産卵後の最も味の劣っている時である。
 また鮎も、九月下旬から十月へかけて最も漁獲が沢山ある。これを落ち鮎、鯖鮎、芋殻鮎などといって、奥山から渓水と共に流れきたった落葉と共に、簗へ落ち込むのである。産卵のために下流へ向かう鮎は、盛期である七、八月頃の味に比べれば格段劣っている。秋の季節に多く口に入るから、鮎は腹に子を持ったものが最もおいしいと、世人は間違ったことをいう。
 さて、動物の味の季節はいつであろうか。動物には必ず一年に一度、性の使命を果たさねばならぬ季節がある。即ち春機の発動である。まれに、年に二回三回と催すものもあるがそれは例外で、年一回が普通であろう。その生殖の期と、味の季節の頂上とがいつも一致すると考えていい。
 十一月初旬から江戸前で釣れる鰡についてみると一番分かる。十二月下旬になって産卵のため外洋へ出る途中の東京湾口で釣れたものは味が落ちる。それは腹に子を持ったからである。江戸前の大鰡で腹に子のない十月下旬から十一月中旬が最もおいしいのである。からだ中の脂肪が生殖腺に吸収されてしまわないからである。
 雉子なども一度交尾すればもうおしまいである。十月頃奥山から出てきて、餌をあさりはじめる。十二月初旬雪が降る候になると、そろそろ脂肪を持ちはじめ、一月から二月には春機が発動して、羽根の色にも筋肉の容にも生気が漲って三月、四月には雌雄相交わり、五月には産卵して育児にいそしむ。ところが十二月に脂肪が乗りはじめて、一月、二月の頃、性の営みを覚えてくるまでは大層味が立派であるが、一度雌雄相交わると俄に味が劣ってくる。それが産…

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