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鯛釣り素人咄
たいつりしろうとばなし
作品ID46790
著者佐藤 垢石
文字遣い新字新仮名
底本 「垢石釣り随筆」 つり人ノベルズ、つり人社
1992(平成4)年9月10日
初出「釣趣戯書」三省堂、1942(昭和17)年
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-07-11 / 2014-09-21
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 職業漁師でも遊釣人でも、鯛といえば、真鯛を指すのが常識である。真鯛に色、形ともによく似ているのに血鯛と黄鯛とがある。これは、真鯛に比べると気品も味も劣り、釣りの興趣も真鯛ほどではない。
 真鯛の当歳子、つまり出来鯛の四、五十匁くらいまでのものをベン鯛と呼び、六、七十匁から二百匁くらいの二歳、三歳のをカスゴ鯛と称しているが、三百匁から四、五百匁のものを中鯛、五、六百匁から二貫五百匁くらいのものを大鯛と言っている。鯛は、二貫五百匁より大きいものは甚だまれであると言っていい。寒鯛釣りには、この五、六百匁から、二貫目前後の大物が掛かって、強引に引っ張るのだ。
 この魚の分布は、随分広い。亜米利加の近海にも英国のまわりにもいるという話である。太平洋は日本沿岸至る所に棲んでいて、南は台湾近海、琉球、九州、四国、紀州から東北、雄鹿半島から北海道まで棲んでいる。日本海は北海道から山陰道に至るところどこの海にもまた沿海州から朝鮮の東海岸でも漁獲がある。支那海にも広く棲んでいて、朝鮮西海岸、釜山沖、九州の玄海灘、中支から南支、海南島から佛領印度支那方面にまで分布していて、支那海一帯はトロール船の活躍場所である。
 だが、真鯛の産地といえば、昔から瀬戸内海を随一とされ、近年は東京湾の内外が釣り人から認められるに至った。
 春になると、瀬戸内海は鳴門と音戸の瀬戸の東西両方から乗っ込んでくる。これを桜鯛と言っているが、鯛は土佐沖の深い海底に一冬を送り、春が訪れると産卵のために内海さしてのぼり込んでくるのである。
 いまも昔も、この桜鯛をいちばんおいしい季節であると関西の人は言っているが、これには異論があるようだ。
 桜鯛といって人気があるのは、四、五月頃の産卵の季節に最も数多く漁れるからであってその季節が最も美味というのではないらしい。総じて魚類は、腹に生殖腺が[#「生殖腺が」は底本では「生殖線が」]発達すると脂肪と肉の組織の一部分をその方へ吸収するから、魚体が痩せて味が劣ってくるものである。鯛も同じことであって、産卵前と産卵後の八月頃までが一番味が劣っている。秋風吹き始めた九月頃からそろそろおいしくなり、十一月、十二月、それから寒に入った頃が至味となるのである。
 東京湾内へも、四、五月頃になると遠く太平洋の方から乗っ込んでくる。産卵の季節は大体、瀬戸内海と変わりがないようだ。
 そこで、我々釣り人が疑問とするところは、外洋から乗っ込んできた鯛と、内海に居付いていた鯛と、味品の区別に関西と関東とが反対である点である。羽倉簡堂の饌書に『従二讃豫一過二鳴門一而東者額上作レ瘤是曰二峡鯛一』と書いてあって、内海地方ではこの鯛を最も上等としている。そしてこの鯛は頭が大きくいかめしく尻の方に至って細くこけ、色は頭の上側から背にかけ、また胸鰭が薄い黒紫色に彩られて、いわゆる赤髭金鱗頭骨に節を作…

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