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さいかち淵
さいかちぶち
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新修宮沢賢治全集 第十巻」 筑摩書房
1979(昭和54)年9月15日
入力者田代信行
校正者伊藤時也
公開 / 更新2000-04-15 / 2014-09-17
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

八月十三日

 さいかち淵なら、ほんたうにおもしろい。
 しゅっこだって毎日行く。しゅっこは、舜一なんだけれども、みんなはいつでもしゅっこといふ。さういはれても、しゅっこは少しも怒らない。だからみんなは、いつでもしゅっこしゅっこといふ。ぼくは、しゅっことは、いちばん仲がいい。けふもいっしょに、出かけて行った。
 ぼくらが、さいかち淵で泳いでゐると、発破をかけに、大人も来るからおもしろい。今日のひるまもやって来た。
 石神の庄助がさきに立って、そのあとから、煉瓦場の人たちが三人ばかり、肌ぬぎになったり、網を持ったりして、河原のねむの木のとこを、こっちへ来るから、ぼくは、きっと発破だとおもった。しゅっこも、大きな白い石をもって、淵の上のさいかちの木にのぼってゐたが、それを見ると、すぐに、石を淵に落して叫んだ。
「おゝ、発破だぞ。知らないふりしてろ。石とりやめて、早くみんな、下流へさがれ。」
 そこでみんなは、なるべくそっちを見ないやうにしながら、いっしょに下流の方へ泳いだ。しゅっこは、木の上で手を額にあてて、もう一度よく見きはめてから、どぶんと逆まに淵へ飛びこんだ。それから水を潜って、一ぺんにみんなへ追ひついた。
 ぼくらは、淵の下流の、瀬になったところに立った。
「知らないふりして遊んでろ。みんな。」しゅっこが云った。ぼくらは、砥石をひろったり、せきれいを追ったりして、発破のことなぞ、すこしも気がつかないふりをしてゐた。
 向ふの淵の岸では、庄助が、しばらくあちこち見まはしてから、いきなりあぐらをかいて、砂利の上へ座ってしまった。それからゆっくり、腰からたばこ入れをとって、きせるをくはへて、ぱくぱく煙をふきだした。奇体だと思ってゐたら、また腹かけから、何か出した。
「発破だぞ、発破だぞ。」とぺ吉やみんな叫んだ。しゅっこは、手をふってそれをとめた。庄助は、きせるの火を、しづかにそれへうつした。うしろに居た一人は、すぐ水に入って、網をかまへた。庄助は、まるで電車を運転するときのやうに落ちついて、立って一あし水にはひると、すぐその持ったものを、さいかちの木の下のところへ投げこんだ。するとまもなく、ぼぉといふやうなひどい音がして、水はむくっと盛りあがり、それからしばらく、そこらあたりがきぃんと鳴った。煉瓦場の人たちは、みんな水へ入った。
「さぁ、流れて来るぞ。みんなとれ。」としゅっこが云った。まもなく、小指ぐらゐの茶いろなかじかが、横向きになって流れて来たので、取らうとしたら、うしろのはうで三郎が、まるで瓜をすするときのやうな声を出した。六寸ぐらゐある鮒をとって、顔をまっ赤にしてよろこんでゐたのだった。
「だまってろ、だまってろ。」しゅっこが云った。
 そのとき、向ふの白い河原を、肌ぬぎになったり、シャツだけ着たりした大人や子どもらが、たくさんかけて来た。そのうしろか…

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