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水の遍路
みずのへんろ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「垢石釣り随筆」 つり人ノベルズ、つり人社
1992(平成4)年9月10日
初出「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-06-20 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 それからというもの、私は暇さえあれば諸国を釣り歩いた。渓流、平野の川、海、湖水。どこであろうと、嫌うところなく釣りを楽しんだ。
 故郷上州の水は、殊に親しみ深い。我が家の近くを、奥深い上越国境大利根岳から流れ出て、岩を削って迸り、関東平野を帯のように百里あまりも悠々と旅してゆく利根川のことはここに説明するまでもない。片品川、赤谷川、湯桧曽川、谷川、宝川、楢俣川、薄根川、大尻川、根利沢、砂沢、南雲沢、吾妻川など、利根川へ注ぐ数多い支流へは、幾度も幾度も分け入った。
 浅間山麓六里ヶ原を[#「六里ヶ原を」は底本では「大里ヶ原を」]流れる、さまざまの渓流も忘れ得られない。碓氷峠の山水を飾る碓氷川、霧積川、坂本川も長い年月、我が釣意を誘うところであった。
 妙義山の南麓から出る西牧川と南牧川を合わせる鏑川の水は美しい。おいしい鮎が大きく育つ。わけて南牧川の支流、塩沢川の山女魚には、数々の想い出がある。
 裏秩父と、御荷鉾とがはさむ渓谷には、深い神流川が流れている。秩父古生層の洒麗な岩の間から、滴り落ちるこの川の水は、冷徹そのものである。鬼石の町から坂原を越え、万場へ出て中里村、上野村へ入れば、次第に山の景観は深邃を加え、渓の魚も濃い。
 赤城山上の大沼、榛名湖など湖上の釣りも静かな心を養うのに足りた。城沼、多々良沼など、館林地方の平野の水には、蘆萩の間に葭切が鳴いて初夏の釣遊が忘れられぬ。上州と野州の国境で渡良瀬川へ注ぐ桐生川の山女魚と、矢田川のはやも、我が故郷では特筆すべき釣り場であった。
 野州へも、足を重ねた。
 那珂川の上流、箒川、荒川などで鮎を釣った。鬼怒川の本流、男鹿川、湯西川、三依川、土呂部川の岩魚と山女魚の姿は大きい。古峯ヶ原の大芦川は幽谷の趣がある。思川と小倉川へも、鮎と山女魚を追って行った。新古河の渡良瀬川では寒中の鯉釣りと、夏の鱸釣りに耽ったのである。
 奥日光の湯川では、猛然と鈎に飛びつく鱒に深い興趣を求めたのであるが、あの戦場ヶ原を取りまく大きな山々の景観には、幾度か心を惹かれた。初夏、浅緑のおおう渓のなぎさに佇めば、前白根に続いた近い斜面の叢林が美しい。
 金精峠を越して菅沼へも、丸沼へも行った。そして、大尻川を下って鎌田へ出て、さらに戸倉の集落を過ぎて尾瀬沼と尾瀬ヶ原の方へも行った。
 茨城県にも釣り場は多い。霞ヶ浦を中心とした水郷地方は、釣りを楽しむ者で殆ど知らぬは少ないであろう。大利根川の鱸と鯉と鮒とはやは有名だ。水戸を東へ三里、涸沼と涸沼川はほんとうに魚が多い。そして、大洗海岸も、夏場は磯魚がよく釣れる。湊の河口も捨てがたいのである。
 那珂川の中流は、鮎が多いので幾年も友釣りを堪能した。下流の鱸とはやは素敵だ。殊にここの鱸は、亡き父と二年続けて試みて想い出が深いのである。久慈川には、関東一と言われるほど姿、味も立派な鮎が棲んで…

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