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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID46837
副題57 矮鶏のモデルを探したはなし
57 ちゃぼのモデルをさがしたはなし
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-03-21 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 以前狆のモデルで苦労した経験がありますから、今度はチャボのモデルは好い上にも好いのを選みたいというのが私の最初の考えであった。
 しかし、矮鶏は狆と違ってその穿鑿も楽であろうと思った……とにかく、早速、狆のモデルの事で注意を与えてくれた彼の後藤貞行氏を訪ねて、今度の製作のことを話し、チャボの良いのがなかろうかと相談しました。
 動物には何かと関係のある人だから、早速、或る人を私に紹介してくれた。その人は、元農商務省の役人をしていた人で、畜産事業をやっていたが、目下は役をやめ家畜飼養をやっている、本郷駒込千駄木林町の植木氏という人であった。
 私は直ぐその人を訪問しました。ちょうど、現在の私の宅と同町内で、その頃長寿斎という打物の名人があった、その横丁を曲がって真直突き当った家で、いろいろ家禽が飼ってあった。

 植木氏に逢って、これこれと話をすると、同氏は暫く考えて、矮鶏の見本として上乗のものがある、という事。それは何処にありますかと訊くと、自分の宅にある。が、しかし、それは、世間でおもちゃにして飼っている矮鶏とは異って、本当の矮鶏で、自分が六代生まれ更らせて、チャボの本種を作り出そうと苦心して拵え上げたもので、これ以上本筋のチャボはない。世間で一升桝に雄雌這入るのが好いとか、足が短くて羽を曳くのが好いとかいうのは、これは玩具で、いわば不具同様、こんなのは矮鶏であって、矮鶏ではない。今、それをお目に掛けようといって、主人は書生に命じてその雄雌のチャボを私の前へ持って来させました。

 見ると、これが矮鶏かと思うような鶏である。
 しかし、立派なことはなかなか立派であった。脚が長く、尾は上へ背負っている。羽毛は切れ上がって非常に活溌で、鶏としては好い鶏とは思えますが、どうも、従来、私たちが目に馴染んでいる矮鶏とは形が余り大まかで、矮鶏という感じがない。けれど、以前、葉茶屋の狆と、戸川さんの狆との対照のこともあるから、家禽専門家の言葉を信用せぬわけには行きません。
 それに植木氏はこういって説明を加えられている。
「お話を聞くと、フランスの博覧会へお出しになる木彫りの見本になさるというのだと、日本の在来のおもちゃのチャボでは困りましょう。あれは型にはめていじめて作ったもので鉢植えの植木と同様、そういう不具物を見本にしたのではフランスの家禽通が承知をしまい。やはり、モデルとするとなるとこの私の丹誠して仕上げたものが適当で、これなら万非点の打たれようはあるまい」
との事。至極もっともな話だ。では、どうかこれを拝借することにお願いしたいと頼みますと、植木氏は一風変った人で、お役に立てばお持ちなさい。あなたに差し上げましょう。私も道楽に六代も生まれ変らせて作ったものが、そういうことに役に立てば甚だ満足ですといって、早速書生さんに苞を拵えさせ、一匹ずつ入れて、両方に縄を…

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