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かへらじと
かえらじと
副題日本移動演劇連盟のために
にほんいどうえんげきれんめいのために
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集6」 岩波書店
1991(平成3)年5月10日
初出「中央公論 第五十八年第六号」1943(昭和18)年6月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-07-28 / 2014-09-16
長さの目安約 37 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

時  昭和十四年初夏より同年の晩秋にかけて

処  関東地方の小さな町

人  志岐行一 二十五
  ふく 二十  行一の妹
  きぬ 四十五 行一の母
大坪参弐 二十四
  大五 六十  参弐の父
飯田虎松 四十二 町長代理
角崎九蔵 三十八 在郷軍人分会長
北野守男 四十五 国民学校々長
上島 通 二十五 農事試験場技手
結城正敏 四十二 予備陸軍少佐
小菅三郎 二十五 郵便局員
柏原 茂 二十九 青年学校教員
三雲日了 二十八 僧侶
川添 基 三十  薬雑貨商
矢部新助 二十六 運送業
巽比良久 二十四 養鯉業
高木千代 二十  女子工員
稲葉明子 二十三 旅館の娘
其他 青年男女
[#改ページ]

第一幕

神社の境内。拝殿は見えないが、恐らく右手の杉樹立を隔てた高みにあり、一段低く地ならしをした広場が舞台となつてゐる。遠景は遥かにひろがる平野を望んでその尽きたところに一連のなだらかな山脈。初夏の払暁である。露にゆれた明暗さまざまの緑をつゝむほのぼのとした光。
遠く、汽笛、貨物列車の音で、幕あく。

小菅三郎、ワイシャツ姿で、巻脚絆をはき、詩集らしいものを読みながら、右手より現はれる。後ろ向きに木の根元に腰をおろす。
矢部新助、青年団服に前掛といふいでたち、棒杭と藁縄の束をもつて左手より現はれる。

矢部  なんだ、まだ誰も来てないのか。
小菅  (そつちを振り返つて)おれが来てる。
矢部  (はじめて気がついたやうに)お前は勘定にはいらん。
小菅  はゝあ、運送屋万能時代か。ところで、志岐のところへ赤紙が来たの、知つてる?
矢部  ほんとかい? 何時?
小菅  昨夜さ。お前と一緒かと思つたよ。

巽比良久、コールテンのズボン、メリヤスのシャツ、十七八の青年二人を連れて、右手より現はれる。
青年はおのおの棒杭と藁縄をもつてゐる。

矢部  おい、おい、志岐一等兵応召だとよ。今日は来られまい。
巽  あゝ、それでわかつた。今、拝殿の前で神妙に頭をさげてたよ。あんまり何時までも動かないから、声をかけようと思つたんだが……奴さん、後のことが心配だらう。
矢部  おれたちはなんのためにゐるんだ。下らんこと云ふなよ。すると、あと、誰だれだ?
小菅  参ちやんと、柏原さんと、蓮華寺の和尚と、対明館のお明さん。
矢部  対明館のお明さんか。世の中も変つたなあ。(時計を見て)さあ、もうあと三分だ。罰金は誰が出すか。

三雲日了、汗を拭きながら、右手より現はれる。

日了  寺の時計はどうもよく狂つていかん。まだ、時間にやなるまい。
巽  あぶないとこだ、和尚さん。
日了  しめ、しめ。罰金は厳重に取立てようよ。
小菅  賛成だよ。
矢部  志岐君の応召、知つてますか?
日了  知らん。さう云へば、あすこの家は、あと女二人つきりでどうするかな。おふくさんは工場へでも出…

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