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キド効果
キドこうか
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第2巻 俘囚」 三一書房
1991(平成3)年2月28日
初出「新青年」1933(昭和8)年1月号
入力者門田裕志
校正者宮城高志
公開 / 更新2010-10-30 / 2014-09-21
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




「うふふん。――」
 と咳払いをなされた木戸博士は、ご自分の計算机からお立ちになり、ズカズカと助手の丘数夫の席までお出でになった。
「こういう事になったよ。――」
 と仰有ると、丘助手の前へ、三枚の曲線図をバサリと投げだされた。
「……」
 丘助手は、突然の博士のお出でに、思わず襟を正して立上った――というより、飛上ったという方が当っているかも知れない。何しろ丘数夫は、この研究所では極く新参者なのであるから。
「この第一図、第二図、第三図の三つを見給え。すべては明瞭すぎるほど明瞭じゃ」
[#挿絵]
 博士は Fig. 1 Fig. 2 Fig. 3 と、英語で図番号をうってある三つの曲線図を、一列にキチンと並べられた。
「はア――」
 丘助手は頓に返辞もなりかねて、図面の上に視線のいなずまを降らせた。
(測定者・木戸とあるからには、これは先生の測定されたものに違いない。なんだか山の形をした曲線が出ているが、第一図のと第二図のとは富士山のような形だ。第三図のだけは、二見浦の夫婦岩を大きくしたように、二つの瘤がある。これは一体なんのことだ)
 と丘助手は三つの図案を見較べ、ちょっと小首を傾けた。
「実に明瞭じゃろうが……」
 と木戸博士は、お独りで感に堪えながって居られた。
「はア、はア――」
(で、これは早く三曲線の意味を呑みこまないと、先生に対して申訳ない――申訳ないらしい)と丘助手は一生懸命に理解しようと、三曲線をその網膜に送りこんでいる。(容疑者の烏山と磯谷と犬塚――すると、これは三人の容疑者に関するものらしい。三人の容疑者と……ハテナ……)
「ウン」と思わず口走って、
(そうだ。あの事件の容疑者のことかも知れないぞ)と彼は、ようやくのことで思いだした。
 あの事件――とは?
 それについて筆者は、次に短い紹介をして置きたいと思う。





 満洲の、ずっと北の方の話である。
 地図を開いてごらんになると判るが、東支鉄道が黒竜江省を横断している。
 なおよく御覧になると、この東支鉄道は大興安嶺をプツリと横断しているのだ。場所は博克図駅と興安駅との間に於てである。そしてもっと詳しく云うと、この両駅の中間に「興安嶺隧道」と名付けられた長さ三キロメートルつまり三十町ちかくもある大トンネルがあって、これが興安嶺をプツリと横断しているのだ。あの事件というのは、実にこの隧道内に於て起ったものなのである。
 さて事件のあった朝というのが、こと稍旧聞に属するが去年の夏八月の某日のことだった。午前七時丁度という時刻にこの博克図駅を問題の列車は興安駅の方へ向って進発したのだった。長時間の夜汽車だったもので、室内は煙草のひどい煙と、悪食乗客の口臭と、もう随分永く女なしでいる若い旅行者たちの何というかオトコ臭い匂いとで、ムッと咽せかえるような実に堪えがたい一夜だった…

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