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医術の進歩
いじゅつのしんぽ
作品ID46864
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集5」 岩波書店
1991(平成3)年1月9日
初出「中央公論 第四十八年第一号」1933(昭和8)年1月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2008-04-28 / 2014-09-21
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

榊 卯一郎  新案炊事手袋製造業
同 とま子  その妻
今田末子  親戚の女
津幡 直  医師
乙竹外雄  外交員
きぬ  女中
三木  小僧
松原延蔵  医師
[#改ページ]

榊卯一郎の住宅兼工場。――相当時代のついた二階建日本家。震災で傷んだまゝの貸家を、更に住み荒すだけ住み荒したといふ状態だが、普請は流石に大がかりで、床柱一つでも、なかなか堂々としたものだ。その階下の幾部屋かを工場に、階上の二間を主人夫婦の居室に充ててゐる。一方は十畳の座敷で、絨氈を敷き、テーブル、椅子など、すべて洋風客間の作り、但し、一隅に、ソファ兼用の寝台があつて、現に、榊卯一郎は、それに寝てゐるのである。隣りは、八畳の純日本間。箪笥、鏡台、長火鉢、その他、ひと通りの家具。不統一のなかに、何処か生活の余裕らしいものを見せてゐる。

舞台は、この二階だ。正面奥は障子を隔てて縁側。

冬のはじめ、午後二時頃、空は晴れてゐる。
[#改ページ]

卯一郎  あゝ、痛い、痛い。それ見ろ、誰も側にゐなくつたつて、痛い時は痛いんだ。病気を大袈裟に云ふなんて、おれの性分ぢやない。おい、奥さん、済まないが、また二分ばかり、さすつてくれ。奥さん、そこにゐないのか。(呼鈴を押す)

女中きぬが上つて来る。

きぬ  なにか御用でございますか。
卯一郎  (鼻を鳴らし)生魚をいぢつて来たな。云つとくがね、おれはその臭ひが何よりも嫌ひなんだ。奥さんには、もう何度も云つた筈だが、お前はまだ来たてで、教はつてなけれや仕方がない。早く下へ降りてくれ。奥さんはなにしてる?
きぬ  お洗濯をなすつてらつしやいます。
卯一郎  なに? 奥さんが洗濯? よろしい。それは後にして、大急ぎで来るやうに云つてくれ。(女中去る)おや、腰の痛みは大分退いたぞ。だが、心臓の方は、相変らず面白くない。ドキドキ……ドキ……ドキドキ……ドキ……ドキドキドキ。たしかに面白くない。

妻のとま子が現はれる。

とま子  おやすみになつてたんぢやないの?
卯一郎  兎に角、今は、この通り眼をさまして、お前の来るのを待つてるんだ。病気の時だけは、もうちつと傍についててくれ。洗濯なんか自分でしなくつてもいゝぢやないか。それに、手袋ははめたかい。(妻の手を握つてみる)
とま子  さうおつしやるけど、あの炊事手袋つて、どうしてもあたし、使ふ気になれないんですもの……。
卯一郎  ほかの品物ならわざわざ使ふ必要はないさ。おれが新案を取つて、あれだけ世間へも広めた完全無欠といふ品物ぢやないか。お前がそんなことを云ふと、第一、人聞きもよくない。「滑らず、破れず、外れず」この三大特長を備へた炊事手袋といふものは、今のところ外にないんだぜ。だからこそ、瀬沼商会からは、五万円で権利を買はうとまで云ひ出して来てる。売らんよ、それくらゐの金ぢや……。ぢつとしてても、…

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