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取返し物語
とりかえしものがたり
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「岡本かの子全集2」 ちくま文庫、筑摩書房
1994(平成6)年2月24日
初出「大法輪」1934(昭和9)年11月号
入力者門田裕志
校正者オサムラヒロ
公開 / 更新2008-11-12 / 2014-09-21
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     前がき

 いつぞやだいぶ前に、比叡の山登りして阪本へ下り、琵琶湖の岸を彼方此方見めぐるうち、両願寺と言ったか長等寺と言ったか、一つの寺に『源兵衛の髑髏』なるものがあって、説明者が殉教の因縁を語った。話そのものが既に戯曲的であったので劇にしたらと思い付いて、其後調べの序に気を付けていると、伝説として所々に出ている。此のたび機会があったのでまとめてみた。伝説には三井寺はもっと敵役になっているが、さまではと和げて置いた。
 一たい歌舞伎劇の手法は、筋の運び方と台詞のリズムに、原理性の表現主義を持っていて、ものに依っては非常に便利なものである。
 滅ぼしてしまうのは惜しい。此の戯曲には可なりそれを活用してみた。


文明十一年十一月(室町時代末期)

近江国琵琶湖東南岸

蓮如上人  浄土真宗の開祖親鸞聖人より八代目の法主にして、宗門中興の偉僧。世に言う「御文章」の筆者。六十九歳。
竹原の幸子坊  上人常随の侍僧。
堅田の源右衛門  堅田ノ浦の漁師頭。六十二歳。多少武士の血をひいて居る。
同源兵衛  源右衛門の息子。二十三歳。
おさき  源右衛門妻。五十四歳。
おくみ  孤児の女中、もと良家の娘、源兵衛の許嫁。十八歳。
円命阿闍梨  三井寺の長老。
三井寺の法師稚児大勢。
その他、村の門徒男女大勢。

     第一場

(山科街道追分近くの裏道。冬も近くで畑には何も無い。ところどころ大根の葉の青みが色彩を点じている。畦の雑木も葉が落ち尽し梢は竹藪と共に風に鳴っている。下手の背景は松並木と稲村の点綴でふち取られた山科街道。上手には新らしく掘られた空堀、築きがけの土塀、それを越して檜皮葺きの御影堂の棟が見える。新築の生々しい木肌は周りの景色から浮き出ている感じ。柱五十余木を費し、乱国にしては相当な構えの建築物の棟である。花道から舞台を通って御影堂の塀横に行きつく道は造営の材料を運ぶ為めに新しく造ったもので、里道よりはやや広く、路面に人々の踏み乱らした足跡、車の轍の跡が狼藉としている。使い残りの小材木や根太石も其の辺に積み重ねられている。遠景、渋谷越の山峰は日暮れの逆光線に黝んでいる。)
開幕。土地の信徒で工事手伝いの男女の一群上手よりどやどやと出て来て舞台の下手へ入る。中の三四人、序に運んで来た材木切れをそこに置き、身体の埃を打ち叩き、着物をかい繕ろいなどしつつ作業を仕舞ったしこなし。

信徒一『や、これでまあ御影堂の仕事もすっかり終った。明日からは土塀の方の手が足らんちゅうから、あちらの手伝いに廻ったろかい』
信徒二『そやそや。何でも手の足らん箇所を見付け次第、そこへかぶりついて是が非でも此の月末の親鸞さま御正忌会のお[#挿絵]夜までには美んごと拵え上げにゃ、わてらの男が立たん』
信徒三『わてらの男なぞどうでもええ。御門徒衆、一統の男さえ立てばええ…

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