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万葉集研究
まんようしゅうけんきゅう
作品ID46962
著者折口 信夫
文字遣い新字旧仮名
底本 「折口信夫全集 1」 中央公論社
1995(平成7)年2月10日
初出「日本文学講座 第一九巻」1928(昭和3)年9月
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-11-21 / 2014-09-21
長さの目安約 59 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一 万葉詞章と踏歌章曲と

万葉集の名は、平安朝の初め頃に固定したものと見てよいと思ふ。 この書物自身が、其頃に出来てゐる。 此集に絡んだ、第一の資料は古今集の仮名・真名両序文である。 これを信じれば、新京の御二代平城天皇の時に出来た事になるのである。 従つて此集の名も、大体此前後久しからぬ間に、纏つたものと見てよさゝうである。
詩句と歌詞とを並べた新撰万葉集や、古今集の前名を「続万葉集」と言つた事実や、所謂古万葉集の名義との間に、何の関係も考へずにすまして来てゐる。 茲に一つの捜りを入れて見たい。 新撰万葉集は、言ふ迄もなく、倭漢朗詠集の前型である。 其編纂の目的も、ほゞ察せられるのである。 此と、古今集とを比べて見ると、似てゐる点は、歌の上だけではあるが、季節の推移に興を寄せた所に著しい。 此と並べて考へられるのは、万葉集の巻八と十とである。 等しく景物事象で小分けをして、其属する四季の標目の下に纏め、更に雑歌と相聞と二つ宛に区劃してゐる。 分類は細かいが、此を古今集に照しあはせて見ると、後者に四季と恋の部の重んぜられてゐる理由が知れる。 私は、続万葉集なる古今は、此型をついだものと信じてゐる。 一方新撰万葉集の系統を見ると、公任の倭漢朗詠集よりも古く、応和以前に、大江維時の「千載佳句」がある。 此系統をたぐれば、更に奈良盛期になつたらしい、万葉人の詩のみを集めたと言つてよい――更に、漢風万葉集と称へてよい――懐風藻などもある。
万葉集と懐風藻と、千載佳句と朗詠集との間にあつた、微妙な関係が、忘れきりになつて居さうでならぬ。 懐風藻で見ても、宴遊・賀筵の詩が十中七八を占めてゐる。 此意味で、万葉巻八・十なども、宴遊の即事や、当時諷誦の古歌などから出来てゐる、と見る事が出来ると思ふ。 其を、四季に分けたのは、四季の肆宴・雅会の際の物であつたからである。 而も、雑と相聞とに部類したのは、理由がある。
相聞は、かけあひ歌である。 八・十の歌が必しも皆まで、此から言ふ成因から来たとは断ぜられまいが、尠くとも起原はかうである。 宮廷・豪家の宴遊の崩れなる肆宴には、旧来の習慣として、男女方人を分けての唱和があつた。 さうして乱酔舞踏に終るのであつた。 さう言ふ事情から、宴歌と言へば、相聞発想を条件としたのである。 古風に謂ふと、儀式の後に直会があり、此時には、伝統ある厳粛な歌を謡うて、正儀の意のある所を平俗に説明し、不足を補ふことを主眼とした。 此際の歌詠が、古典以外に、即興の替へ唱歌を以てせられたのが、雑歌である。
其が更に、宴座のうたげとなると、舞姫其他の列座の女との当座応酬のかけあひとなる。 古代に溯るほど、かうした淵酔行事は、度数が尠くなる。 恐らく厳冬の極つて、春廻る夜の行事に限られたのであらうが、飛鳥朝から、次第に其回数を増し、宴遊を以て宮廷の…

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