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くまと車掌
くまとしゃしょう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「赤い鳥代表作集 2」 小峰書店
1958(昭和33)年11月15日
初出「赤い鳥」赤い鳥社、1927(昭和2)年3~4月号
入力者林幸雄
校正者川山隆
公開 / 更新2008-05-17 / 2014-09-21
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 わたしは尋常科の四年を卒業するまで、北海道におりました。その頃は、尋常科は四年までしかありませんでしたから、わたしは北海道で尋常小学を卒業したわけです。
 今から、ざっと二十年前になります。今では小学校の読本は、日本中どこへいっても同じのを使っておりますが、その当時は、北海道用という特別のがあって、わたしたちは、それを習ったものです。茶色の表紙に青いとじ糸を使い、中の紙も日本紙で片面だけに字をすったのを二つ折りにして重ねとじた、純日本式の読本でした。その中には、内地の人の知らない、北海道だけのお話がだいぶのっていたようです。(わたしたちは、本州のことを内地内地と、なつかしがって、よんでいました。)
 たとえは、くまが納屋へしのびこんで、かずの子のほしたのをはらいっぱいに食べ、のどがかわいたので川の水をのむと、さあ大へんです。おなかの中で、かずの子が水をすってうんとふえたからたまりません。くまは、とうとう胃がはれつして死んでしまったというようなお話ものっていました。ほしかずの子がどんなに水へつけるとふえるものかは、おかあさま方におききになればよくわかります。
 ――わたしは、またもう一つ読本の中にあったくまの絵をありありと思いだすことができます。それは、大きなくまが後足で立って、木の枝にさけをたくさん通したのをかついでいくところです。さけが川へ上ってくるころになりますと、川はさけでいっぱいになり、さけはたがいに身動きもできないくらいになることがあるのだそうです。そういう時をねらって、くまは川の岸にでて、爪にひっかけては、さけをほしいだけ取ります。それから木の枝を折って、さけのあごへ通し、それをかついで穴へ帰ろうとするのですが、さすがのくまもそこまでは気がつかないとみえ、枝のさきをとめておかないものですから、さけは、道々、一つずり落ち二つ落ちして、ようやく穴へ帰ったころには、枝に一ぴきものこっていない。そうしたくまの歩いたあとへ通りかかった人こそしあわせで、くまの落したさけをひろい集めさえすれば大漁になるというお話でした。
 こんなふうですから、ふだんでもくまの話は、よく耳にしました。きょうは郵便配達が、くまに出会ってあぶないところだったとか、どこどこへくまがふいにでて、飼い馬をただ一うちになぐり殺したとか、そういった話をたびたびききました。
 家の父は、新しく鉄道を敷くために、山の中を測量に歩いていましたので、そのたんびアイヌ人を道案内にたのんでいました。アイヌ人は、そんな縁故から、くまの肉を、よく、わたしの家へ持ってきてくれたものでした。
 北海道のくまといえば、こんなにも縁故が深いのです。しかし、かずの子を食べすぎたり、さけを落して歩いたり、猛獣ながら、どことなく、くまにはこっけいな、かわいいところがあるではありませんか。
 さて、つぎにわたしがお話しし…

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