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水菓子屋の要吉
みずがしやのようきち
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「赤い鳥代表作集 2」 小峰書店
1958(昭和33)年11月15日
初出「赤い鳥」赤い鳥社、1928(昭和3)年7月号
入力者林幸雄
校正者川山隆
公開 / 更新2008-05-17 / 2014-09-21
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 要吉は、東京の山の手にある、ある盛り場の水菓子屋の小僧さんです。要吉は、半年ばかり前にいなかからでてきたのです。
 要吉の仕事の第一は、毎朝、まっさきに起きて、表の重たい雨戸をくりあけると、年上の番頭さんを手伝って、店さきへもちだしたえんだいの上に、いろんなくだものを、きれいに、かざりたてることでした。それがすむと、番頭さんがはたきをかけてまわるあとから要吉は、じょろで、水をまいて歩くのでした。ろう細工のようなりんごや、青い葉の上にならべられた赤いいちごなどが、細い水玉をつけてきらきらと輝きます。要吉は、すがすがしい気持で、それらをながめながら、店さきの敷石の上を、きれいにはききよめるのでした。
 時計も、まだ六時前です。電車は、黒い割引の札をぶらさげて、さわやかなベルの音をひびかせながら走っていました。店の前を通る人たちも、まだたいていは、しるしばんてんや、青い職工服をきて、べんとう箱のつつみをぶらさげた人たちです。そういう人たちの中には、いつとはなしに要吉と顔なじみになっている人もありました。
「よ、おはよう。せいがでるね。」
 若い人は、いせいよく声をかけながら、新しい麻裏ぞうりで要吉のまいた水の上を、ひょいひょいと拾い歩きにとんでいきました。なっとう屋のおばあさんが見えなくなったと思うと、このごろでは、金ボタンの制服をきた少年が、「なっとなっとう」となれない呼び声をたてて歩いていました。
 そんな朝の町すじをながめながら、店さきをはいている時は、要吉にとっては一日中でいちばん楽しい時なのでした。なぜかというと、それから朝の食事がすむと、要吉にとってはなによりもいやな、よりわけをしなければならなかったからです。店の品物の中から、いたみかけたのや、くさりがひどくって、とても売りものにならないようなものを、よりわけて、それぞれ箱とかごとへべつべつにいれるのです。
 枝からもぎとられると、はるばると、汽車や汽船でゆられてきたくだものは、毎日毎日、つぎからつぎへといたみくさっていくのでした。要吉は、なめらかなりんごのはだに、あざのようにできた、ぶよぶよのきずにひょいとさわったり、美しい金色のネイブルに青かびがべっとりとついたりしたのを見るたび、まるで自分のはだが、くさっていくようないたみを感ぜずにはいられませんでした。
 よりわけがすむと、今度は、一山売りのもりわけです。いたみはじめたくだものの箱の中から、一山十銭だの二十銭だのというぐあいに、西洋皿へもりわけるのです。そのあんばいが、それはむずかしいのでした。
「そのくらいなのは、まだだいじょうぶだよ。」
 少し、きずが大きすぎるからと思って、はねのけると、要吉は、すぐ主人にしかられました。それではこのくらいならいいだろう、ひとつおまけにいれといてやれと、お皿にのせると、
「そりゃあ、あんま…

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