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雪だるまの幻想(ラジオ・ドラマ)
ゆきだるまのげんそう(ラジオ・ドラマ)
作品ID46995
著者岸田 国士
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集7」 岩波書店
1992(平成3)年2月7日
初出「ラジオ小劇場」NHK、1952(昭和27)年1月17日放送
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-09-08 / 2014-09-16
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

音楽 少女たちの合唱(歌の節にならぬやう、遠くより次第に近く)

雪の降る日 わたしたちは眼覚め
雪の消える日 わたしたちは眠る
悲しみもなく 怒りもなく
よろこびもなく ただ静かに
わたしたちは 息づき
風に舞ひ 大地にいこふ
雪はわたしたちのいのち
雪はわたしたちのよそほひ
白く 冷く もろく
そーつと そーつと
わたしたちは ひとりぽつちのひとと話をする
少女A  あのおぢいさんはどうだらう? いつも、ひとりつきりで、川つぷちの小屋にすんでゐるわ。
少女B  さうね。七年も前から、あそこにゐるのね。
少女C  来たときはひとりぢやなかつたわ。
少女A  戦争がすむ少し前に、家族といつしよに疎開して来たのよ。使へなくなつた水車小屋を借りたんだわ。
少女D  さうさう、あん時は、おぢいさんのほかに、三人ゐたわ。息子のお嫁さん二人と、一番下の娘と……。
少女E  それがみんな東京へ帰つてしまつたのに、おぢいさんひとり帰りたがらないのは、どういふわけ?
少女F  この土地が気に入つたんでせう。
少女G  東京が住みにくいからよ。
少女A  それもさうだけれど、第一、あのおぢいさんは、ひとぎらひなのよ。誰もそばにゐてほしくないのよ。
少女B  わがままなのね。
少女C  へんくつなのよ。
少女D  さうぢやないわ。子供たちとは、それやうまくいつてるのよ。みんなおぢいさんを愛してゐて、おぢいさんも、子供たちには、ほんとにやさしいのよ。
少女E  そんなら、文句ないぢやないの。
少女D  そこが不思議なのよ。ごらんよ。きのふから、長男夫婦と下の娘が、東京からわざわざ訪ねてきて、一生懸命、連れて帰へらうとして口説いてゐるわ。
少女A  むだよ。そんなこと……、おぢいさん、動くもんか。
少女B  とにかく、様子を見に行かう。

音楽 独立したもの、前後にかぶせても可。
この部分だけブリツジ。

少女C  珍らしいこと……うちのまはりの雪が、きれいに掻き寄せてあるわ。
少女D  ああ、けさ、みんなで雪掻きしたらしい。まだ、ふたり、おもてにゐるわ。
少女E  なにしてるの、あのふたあり?
少女F  雪だるまをこしらへてるのよ。
少女G  あら、あんな年をして、おまけに、夫婦で……。
少女A  あの息子は彫刻家なのよ。みてごらん。ちやんとした女の半身よ。
少女B  おぢいさんが縁側にしやがんで、にこにこ笑つてるわ。
少女C  下の娘は、もうストーブにかぢりついて、バカらしいつていふやうな顔をしてるわ。

音楽 …………

俊爾  雪の彫刻は、ちかごろ、あつちこつちで始めたやうだが、なかなか面白いもんなんだ。しかし、相当、冷たいね。
晴子  肩はそれでいいの? もう少し丸みをおつけになつたら?
俊爾  うむ。ひとしやくひ、もらはうか? お父さん、どんな顔してる?
晴子  とても…

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