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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID47008
副題70 木彫の楠公を天覧に供えたはなし
70 きぼりのなんこうをてんらんにそなえたはなし
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-05-05 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 原型の楠公像はすべて檜材を用い、原型全部出来ましたので、明治二十六年三月十六日に学校庭内に組み立て、時の文部大臣並びに学校に関係ある諸氏の一覧に供したのであるが、住友家から学校へ製作を依嘱したのが明治二十三年。着手したのが翌年の四月ですから、木彫原型が全部出来上がった二十六年の三月までには約四ヶ年間を要したのであります。大勢の人と長い時日を要しただけあって原型はなかなか大きなものでありました。今日では帝国美術院の展覧会でも、また個人の製作にしても随分大作が出来るけれども、まだ明治二十五、六年頃にはこの楠公像の木彫のような大作は稀であったから世間で珍しく評判をしたものらしい。美術学校は前申した通り我邦固有の美術工芸を保存し、また奨励する主旨によって開かれたものでありますから、そうした思し召しが一入お深いと洩れ承りまする先帝(明治天皇の御事)には、時々侍従をお使いとして学校へお遣わしになって、生徒の作品のようなものをもお持ち帰りで、お慰みに御覧に入れたこともありまして、何かと宮内省とは縁故がありましたから、今度の楠公の馬については主馬寮の藤波氏にも種々お尋ねした関係もあり木型の出来上がったことも、侍従局から叡聞に達したのでありましょう。
 それで、右の木彫を宮城へ持って来て御覧に供せよとの御沙汰が岡倉校長に降ったのでありました。その事について、三月十七日、斎藤侍従が学校へお出でになって校長と打ち合せの上、上覧に供える時日は来る二十一日午前十時と定められました。
 学校は名誉なことにて早速お受けを致して、関係者一同協議をしましたが、何しろかなり大作であるから、御指定の場所にそれを運搬して組み立てるまでの手順、何時間手間が掛かるか、途中故障などが生ずるようなことはないか、その辺のことを充分研究する必要がありますので、まずその練習をすることになりました。
 行り方は、三本の丸太をもって足場の替りにして、滑車で引き揚げると、旨く組み立てが出来ました。この練習をやってまず一時間あれば組み立てが出来るということが分りました。
 それで、岡倉校長、私など宮城へ場所選定に参りまして、掛かりの人と相談を致しましたが、位置は、陛下が御玄関へ出御あって御覧の出来る所、すなわち正門内よりほかあるまいということになった。その地位は、二重橋を這入った正面の御玄関からぐるりと廻って南面したところの御玄関先ということに決まりました。

 明治二十六年三月二十一日がその当日でありました。
 東の空が白む頃関係者は学校へ出揃い、木型を車に積んで運び出しましたが、上野から宮城までにかれこれ二時間位掛かり、御門を這入って、それから三本の足場を立て、滑車で木寄せの各部分を引き揚げては組み合わせるのに、熟練はしていても一時間半位を費やし、都合四時間ほどの時間が掛かりました。なかなか大騒ぎで、大八車が三台…

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