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春と修羅 第三集
はるとしゅら だいさんしゅう
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「宮沢賢治集全集2」 ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年4月24日
入力者伊藤雄介
校正者米田
公開 / 更新2012-02-24 / 2014-09-16
長さの目安約 42 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

七〇六  村娘
一九二六、五、二、

畑を過ぎる鳥の影
青々ひかる山の稜

雪菜の薹を手にくだき
ひばりと川を聴きながら
うつつにひととものがたる
[#改ページ]

七〇九  春
一九二六、五、二、

陽が照って鳥が啼き
あちこちの楢の林も、
けむるとき
ぎちぎちと鳴る 汚ない掌を、
おれはこれからもつことになる
[#改ページ]

七一一  水汲み
一九二六、五、一五、

ぎっしり生えたち萱の芽だ
紅くひかって
仲間同志に影をおとし
上をあるけば距離のしれない敷物のやうに
うるうるひろがるち萱の芽だ
   ……水を汲んで砂へかけて……
つめたい風の海蛇が
もう幾脈も幾脈も
野ばらの藪をすり抜けて
川をななめに溯って行く
   ……水を汲んで砂へかけて……
向ふ岸には
蒼い衣のヨハネが下りて
すぎなの胞子をあつめてゐる
   ……水を汲んで砂へかけて……
岸までくれば
またあたらしいサーペント
   ……水を汲んで水を汲んで……
遠くの雲が幾ローフかの
麺麭にかはって売られるころだ
[#改ページ]

七一四  疲労
一九二六、六、一八、

南の風も酸っぱいし
穂麦も青くひかって痛い
それだのに
崖の上には
わざわざ今日の晴天を、
西の山根から出て来たといふ
黒い巨きな立像が
眉間にルビーか何かをはめて
三っつも立って待ってゐる
疲れを知らないあゝいふ風な三人と
せいいっぱいのせりふをやりとりするために
あの雲にでも手をあてて
電気をとってやらうかな
[#改ページ]

七一五  〔道べの粗朶に〕
一九二六、六、二〇、

道べの粗朶に
何かなし立ちよってさはり
け白い風にふり向けば
あちこち暗い家ぐねの杜と
花咲いたまゝいちめん倒れ
黒雲に映える雨の稲
そっちはさっきするどく斜視し
あるいは嘲けりことばを避けた
陰気な幾十の部落なのに
何がこんなにおろかしく
私の胸を鳴らすのだらう
今朝このみちをひとすぢいだいたのぞみも消え
いまはわづかに白くひらける東のそらも
たゞそれだけのことであるのに
なほもはげしく
いかにも立派な根拠か何かありさうに
胸の鳴るのはどうしてだらう
野原のはてで荷馬車は小く
ひとはほそぼそ尖ってけむる
[#改ページ]

七一八  蛇踊
一九二六、六、二〇、

この萌えだした柳の枝で
すこしあたまを叩いてやらう
叩かれてぞろぞろまはる
はなはだ艶で無器用だ
がらがら蛇でもない癖に
しっぽをざらざら鳴らすのは
それ響尾蛇に非るも
蛇はその尾を鳴らすめり
青い
青い
紋も青くて立派だし
りっぱな節奏もある
さう そのポーズ
いまの主題は
「白びかりある攻勢」とでもいふのだらう
しまひにうすい桃いろの
口を大きく開くのが
役者のこはさ半分に
所謂見栄を切るのにあたる
もすこしぴちゃぴちゃ叩いてやらう
今日は廐肥をいぢるので
蛇にも手などを出すわけだ

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