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嫉妬する夫の手記
しっとするおっとのしゅき
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆 別巻77 嫉妬」 作品社
1997(平成9)年7月25日
入力者浦山敦子
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-08-07 / 2014-09-21
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     ○
 四月二日、Oがうちへ泊りに来た。
 はじめに妻は、客が居ると手足を縛られるものだから、その滞在を荷厄介にしてゐた。また女中を雇はないかと或る時妻に云つたら、妻は出費の嵩むのを恐れて、そんな贅沢は出来ません、それにお客様もやがてゐなくなるのでせうから、と云つた。
 ところがOは引続き泊まつてゐる。
 妻はOのことで時々私に不平を云つたが、どうにかその滞在にも慣れたばかりでなく、進んで客の世話までするやうになつた。みんなあなたの為ですと、弁解か何かのやうに云つたこともある。私は口ではそれは有難いと云つたが、内心別なことを感じてゐた。不満でもあれば何か心配でもある、一と口に云ふと何だか変に面白くないのである。
 そのうち妻はだんだんOに親しみを持つて来た。客の方も同じ有様だ。しかし私のOに対する気持は暫くは以前と少しも変らなかつた。
 違ふ。Oがゐると仕事の邪魔になるといふことを理由にして一所懸命Oから自由にならうとしてゐたところから見れば、その時既に私の気持は変つてゐた筈である。
 しかし自由になる見込がなかつたので、私は田舎へ行くことにきめた。
 さうきめた事はOにもよく話したが、勿論本当の理由は云はなかつた。
 Oはそれに対して自分は是非家に帰らなければならない、こゝに六月十日過ぎまで滞在することはできない、自分がゐるためあなたの家庭に色んな迷惑をおかけするのは不本意だから、差当り或る友人の家へ移るつもりだ、と云つた。Oにしてみれば気詰りだらうと、その時私は思つた。私は御愛想に、ずつとゐてくれと勧めたが、Oはきかなかつた。私も別に引き留めなかつた。

 私は田舎へ行つた。
 妻がゐないので随分退屈だつた。妻は一度手紙を寄越したが、その手紙には何の感情も籠つてゐなかつた。頗る冷たいものだつた。
 到頭我慢ができなくなつた。Oもやがてゐなくなるだらうと思つて、私は六月九日に帰宅した。

 Oはその間ずつと、知人の家へなど行かずにゐたらしい。家へ帰る心算も、いつのまにか無くなつてゐる。何故出発を延ばしたのか、私には云ひもしなかつた。
 妻は又、もてなしが悪いと云はせないために随分骨を折つてお世話をしましたと、云ふ。
 私の目についただけでも、妻は私の帰宅を余り喜んでゐなかつた。私が帰つても妻には別にどうといふこともないやうな風であつた。思ひもかけなかつた事である。母は私の帰宅を大層喜んだ。母と妻との違ひが余計私を驚かした。
 私の留守中に、私と妻とに対するOの態度は著しく変つてゐた。私には冷淡に、妻にはますます忸れ忸れしくなつてゐる。一度も自分では云ひ出さないが、妻は大層客の気に入つてゐるに相違ない。

     ○
 以前、Oが来るまでは、妻は毎晩書斎で私の傍に坐つて仕事の邪魔をした。Oが来てからは、Oが家にゐないと終始Oのことばかり云つてゐるし…

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