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『聊斎志異』より
『りょうさいしい』より
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「蒲原有明論考」 明治書院
1965(昭和40)年3月5日
初出「新古文林 第一号第一号」1905(明治38)年5月、「新古文林 第一巻第五号」1905(明治38)年8月
入力者広橋はやみ
校正者小林繁雄
公開 / 更新2011-01-27 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

香玉

 労山の下清宮といふは名だゝる仙境なり。ここに耐冬あり、その高さ二丈、大さ数十囲。牡丹あり、その高さ丈余。花さくときぞ美はしう[#挿絵]かなるや。
 そが中に舎を築きて居れるは膠州の黄生とて、終日書読みくらしたる。ある日のことなりき。ふと[#挿絵]より見おこせたるに、やゝ程とほくへだてて女人ひとり、着けたる衣白う花のひまに照り映ゆるさまなり。かゝる境に争でとあやしけれど、趨り出でゝ見むとすれば、疾う遁れき。
 度かさなりぬ。さて樹叢に身をひそめて、そが来むをりをこそ俟てりしか。こたびは彼の女人、紅裳のひとりを偕ひ来と見ゆるに、そのすがた尋常ならず艶だちたり。やうやう近うなりぬ。紅裳のひとり一歩退きて、『人のけはひす』といふに、つとすゝみ出づれば、かなたは驚き惶て、裾たもとひるがへし奔せゆく。追風えならぬにほひ溢れたり。牆のもとにて影きえぬ。黄生愛慕のおもひいとど切なれば樹上に題すとて
『無限相思苦、含情對短[#挿絵]、恐歸沙[#挿絵]利、何處覓無雙。
やがてはあだし他処の花』と、引こもり、物思ひてあるとき、かの女人たちまちおとづれ来ぬ。夢かと喜び迎ふるに、女人はほほゑみて、『君はなどしも盗人めきし行ひをやしたまひし、胸もつぶるるばかりなりき。おもふに君は風騒の士、これよりかたみに親しまばや』といふ。
 さてその生平を叩けば言へらく、『わが小字は香玉、平康の巷にあだなる名をぞつらねし。さるからに道士にひかされてこの山中に閉め置かれたる、浅まし』とうち嘆く。
 黄生『その道士の名は何ぞ。卿をば救ひ出でなむはいかに』
 女人『しかしたまふには及ばじ。』と遮りて、『ただ君と相ひ見るかぎりこそ嬉しけれ。』
『かの紅衣を着けたるは誰ぞ』
 女人『絳雪とよびて、やがてわが義姉なり。』といふ。
 その夜は狎れむつみて、さむれば明け過ぎぬ。急ぎ起きて『あかでしも朝寝しつ』と言ひ/\、衣整なつて『おん口占に酬いまつらむ、笑ひなしたまひそ』とて、
『良夜更易盡、朝暾已上[#挿絵]、願如梁上燕、棲處自成雙。
 つばさならぶるつばくらめ』とあるに、黄生その腕にとりすがりて、『すがた秀れこころ優しき卿に添ひあくがれては、長生不老の思ひせぬものやなからむ。ただ一日離り居ればとて、なほ千里の別しつるここちやせむ。あだぶしの夜こそ愁からめ。』
 香玉こをうべなひて、これよりは宵々の契り渝らざりき。
 ただかの絳雪を伴なふごとに輙くはえも来ず。怨ずるに香玉、『わが情癡の性には似もやらで、絳雪物に拘らはねば、こころ自からゆるやかなり。』と言ひ解きつ。
或る夕つかたなりき。香玉涙ながらに入り来りて、『これを限りのおん別れとはなりぬ。』といふ。『いかなれば』とうら問へば、袖もて涙おし拭ひ、『こも定数とや言はまし。君がかの日のおん歌今はわが身の讖を為しぬ。
佳人已属沙[#挿絵]利、義士今無古押…

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