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ディカーニカ近郷夜話 後篇
ディカーニカきんごうやわ こうへん
副題01 はしがき
01 はしがき
著者
翻訳者平井 肇
文字遣い新字旧仮名
底本 「ディカーニカ近郷夜話 後篇」 岩波文庫、岩波書店
1937(昭和12)年9月15日
入力者oterudon
校正者伊藤時也
公開 / 更新2009-09-26 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 さていよいよ二冊目の本を御覧に入れる、いや二冊目といふよりは寧ろ最後の本といつた方がよい! ありやうは、これも公にするのは全く不本意なことなんで。実際、もういい加減に身の程を知つてもいい頃ぢや。実を言へば、そろそろ村でも、わしのことを哂笑ひだしをつたのぢや。その言ひ草が、[#挿絵]ほいほい、老爺さんもすつかり耄けてしまつたよ。あの高齢をからげて、こんな子供だましみたいな物を拵らへて御恐悦なんだからなあ![#挿絵]と、かうぢや。まことに尤もな話で、もう疾くに楽隠居でもして落ちついてゐるのがほんたうぢやて。ひよつとすると、親愛なる読者諸君は、わしがこんなことを言つてわざと老人ぶつてゐるのだとお思ひかも知れんが、どうしてどうして、口に一本の歯も無くなつた今日、何を好んで老人ぶることがあらう! この頃では何か柔かいものにでもあたれば、まあ、どうにか食へもするが、ちよつと固いものにでもぶつかつたら、てんで噛み切ることも出来ませんのぢや。兎も角、またこの本を一冊お目にかける! が、どうか頭からこきおろしたりはしないで頂き度い! 別れ際に悪口を浴びせるのは宜しくないことぢや、殊に何時また会へるやら知る由もない相手にむかつては尚更のことぢや。さて、この本では、ひとりフォマ・グリゴーリエ[#挿絵]ッチを除けば、殆んど諸君にとつて新顔の話し手ばかりの物語を御披露する次第ぢや。あの、よほどの才子や莫斯科人の大部分にもちよつと呑みこみにくいやうな気障な言葉づかひで話をした、例の豌豆いろの長袗を著た貴公子先生からはもう、すつかり音沙汰がない。いつかみんなを相手に喧嘩をして以来、てんでわれわれの村へ寄りつかなくなつたのぢや。さうさう、あれはまだお話しなかつたかな? いや、とても滑稽な出来事がありましたのさ。去年の、なんでも夏頃のこと、さうぢや、ちやうどわしの名附日の祝ひの当日だつたと思ふが、うちへお客がぞろぞろやつて来たのぢや……(茲で一言申しあげておかねばならないのは、有難いことに、土地の衆が忘れもせずにこの老人のわしをちやんと訪ねて呉れることなんで。わしが自分で名附日の憶えがあるやうになつてから、もう五十年からになるが、わしの年齢が正確に幾つなのか、それは当のわしも、うちの婆さんも、はつきりしたことは申しあげ兼ねる。何れにしても七十歳間近にはなる筈ぢや。ディカーニカの祭司ハルラムピイ師に訊けばわしの生年月日もわかるのぢやが、惜しいことに、もう五十年も前にこの人は亡くなつてしまつたのぢや。)それは扨、お客に来てくれた連中は、ザハール・キリーロ[#挿絵]ッチ・チュホプペーニコだの、ステパン・イワーノ[#挿絵]ッチ・クーロチカだの、タラス・イワーノ[#挿絵]ッチ・スマチニェーニキイだの、陪審官のハルラムピイ・キリーロ[#挿絵]ッチ・フロースタだのといつた面々でな、それから、まだある………

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